一緒に寝たり、スキンシップをしたり…ねことの生活は幸せと癒しでいっぱいです。
しかし、ねことの関わり方を間違うと、ねこから病気がうつってしまうこともあります。
中には命に関わるほど重いものもあり、注意が必要です。このような動物から人に移る病気を「人獣共通感染症」といいます。
ねことの生活をよりハッピーにするためにも、ねこからうつる病気「人獣共通感染症」と、その予防法を知っておきましょう。
人獣共通感染症とは「動物由来感染症」や「ズーノーシス」とも呼ばれ、寄生虫・細菌・ウイルスなどの病原体が動物から人に感染し、発症する病気を指します。
この「人獣共通感染症」は、野生動物や家畜はもちろんのこと、ペットからも感染する恐れがあります。
特に現在はペットブームでねこや犬を飼う人が増えたうえ、家族同然に一緒に寝たり、スキンシップをしたりすることが多くなりました。
その結果、人獣共通感染症にかかるケースも増えているようです。
「うちのねこは健康だから心配ない」と思われるかもしれませんが、人獣共通感染症の中には、動物によって症状の出方が違うものもあります。
例えば、ねこにとっては普通に持っている無害な細菌が、一度人の体に入ると重篤な症状を引き起こすこともあるのです。
人獣共通感染症にかからないようにするためには、その感染経路を知っておくことが重要です。
今回は、主な感染経路である
以上3つのケースにおいて、ねこからうつりやすい病気をご紹介します。
まずはねこの排せつ物(うんち、おしっこ)からうつる病気をご紹介します。
トイレの掃除をするなど、排せつ物に直接触れたときはもちろんのこと、空気感染を起こすこともありますので注意が必要です。
また、排せつ物以外にも、鼻水、よだれ、羊水、母乳などから感染するものもあります。
ねこの体から出てきたものが体についた場合は、必ず洗い落とすようにしましょう。
【1】トキソプラズマ症
トキソプラズマは寄生虫の一種です。
この虫のオーシスト(卵のようなもの)がねこのうんちと一緒に排泄され、それが人の体内に入ることでトキソプラズマ症に感染します。
ねこはトキソプラズマに感染しても症状が出ることはありません。
また人も多くの場は合感染しても無症状ですが、妊婦が感染してしまった場合、流産や赤ちゃんの水頭症を引き起こすことがあります。
ただし、妊婦が感染しても、抗体ができていれば赤ちゃんに影響はありません。
【2】瓜実条虫症
瓜実条虫も寄生虫の一種で、ノミを媒介としてねこに寄生します。
少量の場合は症状がありませんが、大量に寄生すると下痢や血便がみられるようになります。
ねこから人の感染経路としては、うんちやねこの毛についたノミが人の体の中に入るというケースが多いようです。
ほとんどの場合は無症状ですが、下痢や腹痛のほか、肝臓の腫れ、発熱、まれに失明を引き起こすこともあります。
【3】猫回虫
猫回虫も寄生虫の一種です。
猫回虫の幼虫を口にする、感染した母猫の母乳を子ねこが飲むといった経路でねこに寄生します。
こちらも少量の場合は無症状ですが、大量に感染すると下痢や便秘、嘔吐、食欲不振が見られます。
また子ねこの場合は発育不良や痙攣(けいれん)を起こす場合もあります。
ねこのうんちや毛についた虫の卵が体内に入ることで人にも感染します。
人の体内に入った回虫は成長することはありません。
しかし、しばらくの間は生存しており、アレルギー反応や目や神経の異常を引き起こすことがあります。
【4】Q熱
Q熱はコクシエラ・バーネッティという微生物によって感染する病気です。
感染した動物の排せつ物や母乳、羊水からうつります。
軽症の場合は軽い発熱や呼吸症状に留まりますが、重症になると肺炎症状、肝機能障害が出ることがあり、治療が遅れると死に至ることもあります。
潜伏期が2~3週間あるため、特定が難しいやっかいな病気です。
【5】サルモネラ症
食中毒でも知られるサルモネラ症はサルモネラ菌によって引き起こされる病気です。
生卵から発症することが多いのですが、ねこのうんちからも感染します。
ねこがサルモネラ症に感染しても、ほとんど症状は現れませんが、子ねこでは下痢や嘔吐などが見られる場合があります。
人の場合も、健康であれば症状は出ません。
しかし、高齢者や子供、免疫が特に弱まっている人は、12~72時間の潜伏時間を経て、下痢、発熱、腹痛といった症状が現れます。
重篤なケースでは下痢による極度の脱水症状、また敗血症により命に関わることがあります。
【6】コリネバクテリウム・ウルセランス感染症
コリネバクテリウム・ウルセランス菌は、動物に常在している細菌です。
本来毒性はありませんが、溶原化することにより毒素を産生する菌に変異し、感染症を引き起こします。
ねこが感染した場合の症状として見られるのは、くしゃみや鼻水といった風邪のような症状や、皮膚炎、皮膚や粘膜の潰瘍などです。
感染したねこの鼻水やよだれに触れることで、人にも感染する恐れがあります。
症状はジフテリアに似ており、のどの痛みや呼吸症状などが現れます。重症の場合は呼吸困難を起こし、死にいたることもあります。
続いて、ねこの皮膚病からうつる病気をご紹介します。
ねこを撫でる、だっこするといったごく普通のスキンシップからも感染することがあるため注意が必要です。
普段からねこの皮膚をチェックして、異常がないかを確認しましょう。
【1】疥癬(かいせん)
疥癬は「ヒゼンダニ」というダニによって起こる皮膚病です。
ヒゼンダニは皮膚の表面ではなく、内部にトンネルを掘って寄生し、激しいかゆみを引き起こします。
ねこに触るなど皮膚同士の接触により人にも感染し、ねこと同じく強いかゆみが生じます。
飲み薬または塗り薬による治療によって1ヶ月程度で治りますが、ダニがいなくなった後もかゆみや湿疹が続くことがあります。
【2】真菌症(皮膚糸状菌症)
真菌症(皮膚糸状菌症)は真菌(カビ)が感染することで起こる病気です。
真菌は土の中などにいて、接触することによって感染します。
感染すると脱毛やフケ、皮膚炎などの症状が見られます。
感染したねこの毛やフケに触れることで人に感染する可能性があります。ねこに触れたブラシや毛布から感染することもありますので注意が必要です。
人に感染すると腕や顔などにかゆみを伴う赤いリング状の湿疹が現れます。
最後に、ねこに噛まれたりひっかかれたりすることでうつる病気をご紹介します。
ねこにとっては無害な常在菌が、人の体内に入ることで症状を引き起こすこともありますので、相手が健康な飼いねこであっても噛まれたりひっかかれたりすることがないよう気をつけましょう。
【1】パスツレラ症
パスツレラは細菌の一種で、哺乳動物のほとんどの口内や爪に存在しています。
そのためねこには無害ですが、噛まれたりひっかかれたりすることで人の体内に入ると、痛みや発熱、リンパ節の痛み、関節炎といった症状が現れます。
重症化すると敗血症や骨髄炎を起こし、死に至ることもあります。
【2】カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症
カプノサイトファーガ-カニモルサスは、ねこや犬の口の中にいる細菌です。
こちらもひっかかれたりかまれたりすることで感染し、発熱、倦怠感、腹痛や頭痛、吐き気を引き起こします。
重症化した場合には敗血症や髄膜炎を起こし、多臓器不全に至って死亡することもあります。
【3】猫ひっかき病
ねこ引っかき病は、バルトネラ-ヘンセレという細菌が病原体である感染症です。
名前通り、ねこからひっかかれたり、もしくは噛まれたりすることで人に感染します。
症状としては傷ついた部分に水疱ができたり可能したりするほか、発熱や頭痛、リンパ節の腫れが見られることもあります。
まれに脳症や髄膜炎、肝臓膿瘍や脾臓膿瘍といった合併症が生じる場合があります。
※2022年9月にミュシュランで一つ星を獲得した「Japanese Soba Noodles 蔦」の店主が急逝された件で、ねこに咬まれたことが原因などの報道がありましたが、関係者は事実無根と猫との因果関係を否定しています。
ねこから人への病気の感染を防ぐためには、どのような点に気をつければ良いのでしょうか。
特に重要な対策法を以下にご紹介します。
先ほどご紹介したとおり、ねこの爪や歯は細菌の温床です。
また、ねこが体をなめてノミや寄生虫の周りにある状態でねこになめられたり、キスをしたりすると病気がうつる場合があります。
といった、感染リスクの高いスキンシップはしないようにしましょう。
体調が悪かったり、他の病気にかかっていたりすると、免疫が落ちて病気の感染リスクが上がります。
ねこも人も、栄養バランスに気をつけ、ストレスのない生活を心がけて免疫アップに努めましょう。
また、トイレ掃除の際にうんちを見て、寄生虫に感染していないか確認する(うんちに直接触れないように注意)、定期的にブラッシングを行い、皮膚に問題がないか確認する、ノミ、ダニの予防を行うなど、ねこの健康管理をしっかりしておくことも重要です。
ねこのトイレや部屋を掃除して、感染経路になるうんちや毛、ノミ、寄生虫などが残らないようにしましょう。
特に真菌症は次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を行うことで、感染拡大を防止できます。
また、ねこを触った後やトイレを掃除した後は、必ず手を洗うのも重要な感染防止対策です。
野良ねこはノミやダニ、真菌などに触れる機会が多いため、感染症にかかっている恐れがあります。
また、人に慣れていない野良ねこに近づくと、ひっかかれたりかまれたりしてけがをしたり、そこから病気に感染したりすることもあります。
可愛いからといって、野良ねこに安易に近づいてはいけません。
保護活動を行っているなど、野良ねこと接する機会が多い場合は、手袋をする、ねこに直接触れない、活動の後は手を洗うなど、感染予防に努めましょう。
ねこから人にうつる感染症について解説しました。
中には重篤な症状を引き起こすものもあり、心配になったかもしれません。
しかし、適切な感染対策を行えば、必要以上に怖がる必要はありません。
ねことの幸せな生活のためには、ねこと人、両方が健康でいることがとても大切です。
ねことのスキンシップや健康管理、部屋の掃除を正しく行い、ねこと自分を感染症から守りましょう。