ねこのあごの下にブツブツができたり、黒い粉のようなものがついていたり…「これはなんだろう?」とふしぎに思っている飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。実はそれ、ねこの「ニキビ」なんです。ねこのニキビは何が原因でできるのでしょうか。また、どのように治療や対策を行っていけば良いのでしょうか。今回の記事では、ねこのあごにできるニキビについてお話します。
猫ニキビとは、ねこのあごを中心に発症する皮膚病の一種で、主に皮脂が毛穴につまり、黒ずんでできた粒状のできものです。医学的には「ざ瘡(ざそう)」、「アクネ」と呼ばれます。
皮脂が詰まってできるという点は人間のニキビと似ていますが、人間のニキビは皮脂分泌が盛んな10代頃に起きやすいですが、ねこのニキビは年齢や性別、品種などに関係なく発生します。
先ほどご紹介した通り、ねこニキビはあごに多く見られますが、他にも皮脂腺の多い口もと(くちびる、口角)、顔、耳にできることもあります。
また、しっぽのつけねに似たような症状が現れることがありますが、それは「尾腺炎」という別の皮膚病である場合があります。尾腺炎も尾腺部の皮脂の分泌過剰が原因で起こり、特に未去勢のオスねこに良くみられるようです。
猫ニキビの症状は、大きく軽度、中程度、重度に分けられます。それぞれの症状は以下の通りです。
【1】軽度
あごや口の周りに茶色や黒の粒のようなものが見られます。かゆみや痛みはありません。
【2】中程度
患部に軽い炎症や脱毛が見られるようになります。また、かゆみを生じるため、ねこが自分でひっかくようになります。
【3】重度
重度になると皮膚内で細菌やウイルスが繁殖し、二次感染が起こります。患部が赤くなったり腫れたりするほか、細菌感染を起こして化膿し、膿が出ることもあります。
かゆみや痛みはさらに強くなり、ねこが引っかくことでさらに重症化してしまうこともあるようです。重症化すると病原体が全身に回り、発熱や食欲不振を引き起こすこともあります。
猫ニキビの原因は皮脂腺の詰まりですが、なぜ発症するのかはいまだ判明していません。しかし、皮脂腺の詰まりを引き起こす原因と考えられるものはいくつかあります。主なものを以下にご紹介しましょう。
ねこは自分で体を舐めて(グルーミングをして)、体を清潔に保っています。しかし、あごはねこ自身でグルーミングができません。そのうえ、あごは皮脂分泌が活発なうえに食べかすがつきやすく、汚れやすい場所です。
皮脂や汚れがあごに残る結果、ニキビができるのではないかと考えられています。
ごはんや水を入れている食器が汚れていると、雑菌が繁殖します。それが猫ニキビを引き起こしているという説もあります。特にプラスチックは多孔性で見えない穴がたくさんあいているため、雑菌が繁殖しやすい材質です。
また、ごはんや食器の材質が体に合わず、アレルギー反応として猫ニキビが起こるともいわれています。
ホルモンバランスの乱れや病気、ストレスにより免疫が落ちると、皮膚のバリアが弱くなり、猫ニキビになりやすくなるといわれています。
去勢や避妊手術の後や、猫エイズを発症した場合は特に注意が必要です。
ストレスも免疫力を下げる要因になります。引っ越しをした、新しいねこを迎えたなど、環境の変化をストレスに感じて免疫が下がり、病気になってしまうこともあるようです。
ニキビダニが原因で炎症が起きる場合もあります。ニキビダニは毛包虫(もうほうちゅう)とも呼ばれるダニの一種です。健康な哺乳類の皮膚に常在しており、普段は特に問題を起こしません。
しかし、免疫力が下がるなどなんらかの原因で異常に増殖し、ニキビダニ症が発生、それが原因でねこニキビになるケースもあります。
猫ニキビは軽症であれば、飼い主さんのケアだけで改善することができます。猫ニキビを治すためには、原因と考えられる問題をつきとめ、取りのぞくことが重要です。主な対処法を以下にご紹介しましょう。
患部を清潔にすることで、ニキビの発生を減らし、重症化を防ぐことができます。以下のケア法を試してみましょう。ごはんの後に行うとより効果的です。
用意する物:清潔なタオル・ガーゼ、ぬるま湯
ケアの方法:タオルもしくはガーゼをぬるま湯に浸し、固く絞ります。
緩く絞り過ぎて水分が多く残っていると、拭いた際にねこの毛に水分が残り、雑菌繁殖の原因になりますので注意しましょう。
絞ったタオルやガーゼで、ねこの毛を優しく拭きます。黒いできものをふやかして取りのぞくイメージで拭いてあげましょう。
ゴシゴシ強くこすったり、歯ブラシやかみそりなどを使ったりしてはいけません。皮膚に傷がつき、そこから細菌などが入ってより悪化する恐れがあるためです。
汚れがひどい場合は低刺激のシャンプーで患部を洗うとより消毒効果があります。しかし、人間用のシャンプーや皮膚病の薬は絶対に使わないようにしましょう。ねこの皮膚は薄くてデリケートなため、人間用は刺激が強過ぎます。
食器はこまめに洗い、清潔を保ちます。また、プラスチックやステンレスにアレルギーを持つねこもいるため、食器の材質にも気を配りましょう。
食物アレルギーを持っていると考えられる場合には、ごはんを変えて様子を見ます。判断に迷ったら、獣医師に相談しましょう。
ストレスの原因が分かっている場合は、それを取りのぞいてあげましょう。
例えば、新しいねこが来てストレスを感じている場合は、部屋を分けたり、そのねこだけの隠れ場所を作ったりすることでストレスが軽減します。
また、部屋が暑い、寒い、大きな音が鳴る、来客が多いなど、人からするとちょっとしたことでも、ねこにとっては過剰なストレスになるかもしれません。
ストレスによって免疫力が低下すると、猫ニキビだけではなく、さまざまな病気にかかりやすくなります。ねこの様子を注意深く見守り、リラックスして過ごせる環境を整えてあげましょう。
重症の場合は動物病院で治療を受ける必要があります。病院では患部の毛を剃り、抗生剤や炎症抑制の塗り薬を使用します。炎症がひどい場合は、抗生物質が処方されることもあります。また、ニキビダニ症が見られる場合は駆虫薬が用いられます。
治療費は動物病院によって異なりますが、4,000円程度が相場のようです。
先ほどご紹介した通り、猫ニキビは免疫の低下が原因であるケースがあります。そのため、基礎疾患があることも考えられますので、心配であればあわせて検査を行うと良いでしょう。
猫ニキビの症状や原因、対処法についてご紹介しました。猫ニキビは軽症であれば痛みやかゆみもなく、必要以上に心配する必要はありません。日常のお手入れや、飼育環境の見直しで、症状を改善できる可能性は大いにあります。
とはいえ、症状が重く、ねこ自身も苦痛を感じている場合には、動物病院での治療が必要です。そうした判断をするためにも、普段からねこの様子を良く観察するようにしましょう。