人間と同じく、ねこにも高血圧から起こりうる病気があります。そのため、ねこの血圧を測ることで病気にいち早く気づき、早期治療につなげることができます。しかし、ねこの血圧はどのように測れば良いのでしょうか。また、血圧の異常はどのような病気と結びつくのでしょうか。今回の記事では、「ねこの血圧」について解説します。
まずは基礎知識として、ねこの血圧の正常値と測り方についてご紹介します。
ねこと人間の血圧はもちろん違います。まずは、ねこの血圧の正常値と、高血圧・低血圧の目安を見てみましょう。
ねこ | (参考)人間※1 | |
正常値 | 最高血圧:100~160 mmHg
最低血圧: 60~100 mmHg |
最高血圧:120mmHg未満
かつ 最低血圧:80mmHg未満 |
高血圧 | 最高血圧:160mmHg以上を持続 | 最高血圧:140mmHg以上
あるいは 最低血圧:90mmHg以上 |
低血圧 | 最低血圧:80mmHg以下を持続 | 最高血圧:100mmHg未満※2 |
ねこの血圧の測り方としては、主に以下の3通りがあります。
【1】測定器を使う方法
ねこ専用の測定器を使う方法で、後述する観血的血圧測定に対し、非観血的血圧測定と呼ばれることもあります。人間と同じく、カフ(腕輪)をねこの腕に巻きつけて測定します。
人間と同じくねこも興奮すると血圧が上がりますので、ねこを落ち着かせながら測定することが重要です。
【2】観血的血圧測定
観血的血圧測定とは、ねこの動脈にセンサー付きの注射針などを指して血圧を測定する手法です。測定器を使う方法(非観血的血圧測定)よりも正確な血圧を把握できますが、起きている状態のねこに注射針を刺す必要があるため非常に難しく、ねこへの負担も大きいというデメリットがあります。
【3】毛細血管再充満時間テスト
測定器を持っていない場合でも、血圧異常を把握できる測定法です。
■手順
2秒以内で赤みが戻れば正常です。2秒以上かかる場合は低血圧、脱水、低体温といった異常が起きている恐れがあります。
なお、肉球でのチェックは肉球がピンクのねこに限られます。黒猫のような肉球が黒いねこは歯ぐきでチェックしなくてはなりません。
また、この方法は体の末梢まで血液が送られているかどうかを見るためのものです。正確な血圧の測定はできず、また高血圧を発見することもできません。
人間と同様、ねこの高血圧も体のさまざまな場所に悪影響を及ぼします。しかし、高血圧というだけでは特にこれといった症状がないため、体に異常が生じても気づきにくい点が高血圧の怖いところです。
また、高血圧自体が何らかの病気から引き起こされていることもあります。
高血圧から起こりうる病気、高血圧の原因になる病気を見ていきましょう。
高血圧症になると毛細血管が高い圧を受けて傷つき、血管の構造が変わります。その結果血管抵抗の増大(血管が硬くなる)や血管の詰まりが起こりやすくなります。
特に大きな損傷を受けるのは血液の多い目、心臓、脳、腎臓で、これらの臓器は「標的臓器」と呼ばれています。
それぞれの臓器において高血圧症が引き起こす主な症状や病気は以下の通りです。
高血圧は病気の発生に伴って生じる「二次性高血圧」と、基礎疾患も血液の異常もないのに血圧が高い「特発性高血圧」があります。
このうち、ねこに多いのは二次性高血圧です。つまり高血圧であるということは、なんらかの病気にかかっている危険性が高いということでもあります。
ねこの高血圧の原因として考えられる病気としては以下のようなものがあります。
【1】慢性腎臓病
慢性腎臓病(腎不全)はねこに多く見られる病気の一つです。外傷や薬物中毒、腎炎などが原因で腎臓がダメージを受けることによって、腎臓の機能が低下する病気です。
慢性腎臓病と高血圧は非常に関係が深く、高血圧のねこの最大74%が慢性腎臓病であるとの報告もあります。
【2】甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌されるホルモンが異常に増加することによって生じる病気です。代謝が上がるために活発になったり、興奮したりするものの、代謝異常により体重の減少が見られるようになります。
また、甲状腺ホルモンの過剰分泌により心拍数や心筋収縮性が増加し、高血圧症になる場合もあります。
その他、嘔吐や下痢、多飲多尿なども甲状腺機能亢進症の症状です。
※症状には個体差があります。
【3】原発性アルドステロン症
アルドステロンとは副腎で作られるホルモンのひとつで、血圧をあげる働きがあります。副腎皮質の異常や腎不全、心不全などの病気が原因でアルドステロンが分泌過剰になると、高血圧や低カリウム血症といった症状が引き起こされます。
高血圧だけではなく、低血圧もねこの健康に悪影響を与えます。また、何らかの病気により低血圧になっている場合もあります。ねこの低血圧の症状と原因をご紹介しましょう。
低血圧の状態になると、以下のような症状が見られるようになります。
ねこの低血圧の原因としては、主に以下の3点があります。
【1】病気
心不全や心筋症といった心臓の病気や、内分泌系疾患により低血圧症状が引き起こされることがあります。
【2】出血
出血により体内を循環する血液の量が減ると低血圧が低下します。外傷の他、体内の出血によっても起こりえます。
【3】麻酔や薬
麻酔や薬も低血圧の原因になりえます。特に高血圧症に使われる薬の多くは、副作用として低血圧になる危険性があります。
先ほどご紹介したとおり、ねこの高血圧はなんらかの病気が原因になっていることがほとんどです。また、血圧異常がねこの体に悪影響を与えることもあります。
それでは、血圧異常からねこを守るためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
人の高血圧予防といえば、最初に思い浮かぶのが「減塩」です。しかし、ねこの場合、塩(ナトリウム)の摂り過ぎが高血圧につながるという報告はありません。それどころか、ねこの総合栄養食の栄養基準であるAAFCOにおいては、ねこのナトリウム摂取量上限は設定されていません。すなわち、ねこに関しては「塩分の摂り過ぎ」という概念がないのです。
しかし、塩をあまりにたくさん摂ると、腎臓や心臓に負担がかかります。とくにシニア猫や心臓、腎臓に病気を抱えているねこは塩分の少ない療法食が必要になる場合があります。
上記でご紹介したとおり、血圧異常の影には恐ろしい病気が隠れていることがあります。症状が現れにくい病気や慢性化しやすい病気も多いため、早期発見、早期治療が重要です。
特に7歳以上のシニアねこは定期的に動物病院で血圧測定や健康診断を受けるようにしましょう。
血圧は重要なバイタルサイン(体の状態を表す数値)の一つであり、血圧を測定することでねこの健康状態をチェックすることができます。
専用の測定器を使って自宅で測定する方法もありますが、難しい場合は動物病院の定期健診で血圧測定をしてもらいましょう。異常値が出たら獣医師にすぐ相談できる点も動物病院で測定するメリットです。
ねこはなかなか苦痛を表に出すことがないため、気がつくと重い病気にかかっていることも少なくありません。血圧測定を定期的に行い、ねこの隠れた不調をいち早く見つけてあげましょう。