ねこのお腹タプタプしていて、皮がたるんでいます。「肥り過ぎかな?」、「病気では?」と心配になってしまうかもしれません。しかし、多くの場合心配はいりません。ねこのおなかのたるみはごく自然にできるものであり、ねこの生活に役立っているためです。
今回の記事では、ねこのお腹のタプタプの謎に迫ります。
ねこは大人になるとお腹から後ろ足のつけねにかけて、皮が垂れ下がってきます。
これは「ルーズスキン;Loose Skin(たるんでいる皮膚)」と呼ばれるもので、成猫の多くに見られるものです。
なお、ルーズスキンは日本での通称で、正確には「プライモーディアルポーチ;Primordial Pouch(原始的な袋)」といいます。
ルーズスキン(プライモーディアルポーチ)はねこの一般的な特徴であり、異常ではありません。
子ねこにはルーズスキンがありません。健康な子ねこのおなかは適度にポコッとふくらみ、皮はパンパンに張り切っています。
成長するに従い、だんだんお腹にたるみができ始めます。
しかし、個体差があるため、ルーズスキンができないからといって心配する必要はありません。
プライモーディアル(原始的)といわれるように、ルーズスキンは遺伝的に野生に近いほど良く発達しています。
トラ、ライオン、ヒョウ、チーターといったねこ科の野生動物には、立派なルーズスキンが見られることが多いです。
先ほどご紹介したとおり、野性に近い種類の方が、ルーズスキンが目立ちます。家猫の中でも、特に原種に近い以下の猫種は、ルーズスキンが良く発達しています。
猫種によっては、ルーズスキンの状態が審査基準に入ることもあるそうで、立派なねこの「チャームポイント」として認識されていることが分かります。
ねこのお腹にルーズスキンがある理由については諸説あり、はっきりとは分かっていません。
しかし、ねこが生きていくうえで重要な役割を持っていることは間違いないでしょう。
ルーズスキンの役割について、有力な説をいくつかご紹介します。
お腹には生きていくうえで重要な臓器がたくさんあるうえ、柔らかくて弱い部分です。
外敵に襲われたり、縄張り争いなどでほかのねことけんかをしたりした時、お腹を噛まれると大きなダメージになってしまいます。
しかし、ルーズスキンがあれば、内蔵や血管に傷が到達することを防ぎ、大切なお腹を守ることができます。
ねこ科の動物はしなやかな動きにより、瞬時に獲物を捕らえることを得意としています。
しかし、もしお腹の皮がピンと張っていたら、突っ張ってしまい体を素早く動かすことができません。
しかし、ルーズスキンによりおなかの皮にゆとりがあると、体の可動域が大きくなるためスムーズに動けます。
人間で言えば、とび職のズボン「ニッカポッカ」のようなものです。ニッカポッカは股下に余裕があり、足を動かしやすくなっています。
このような「遊び」の部分があると、体を早く、また安全に動かすことができるのですね。
野生動物はいつも食料を確保できるわけではありません。そのため、狩りに成功した時に「食いだめ」をする必要があります。
食べる時、お腹の皮膚にゆとりがあると、それだけ食べ物を多く詰め込めます。
私たちがごちそうを食べる時に、ゴムウエストのスカートを履くのと同じようなものです。
ねこの原種は砂漠に住んでいたといわれており、寒さに弱い動物です。特にお腹は大切な内臓が集まっているため、冷やしてしまうと体調を崩す恐れがあります。
ルーズスキンはねこのお腹を寒さから守る保温効果があるともいわれています。いうなれば「腹巻」のようなものかもしれません。
ルーズスキン以外にも、ねこのお腹がたるむ理由はいくつかあります。ルーズスキンと同じく異常ではないものもあれば、肥満や病気といった心配な理由もあります。
ルーズスキンではないお腹のたるみの原因になるものをご紹介します。
メスねこは出産や避妊手術によってお腹がたるむことがあります。
出産の場合は、お腹に赤ちゃんができることでお腹が大きくなり、皮が伸びて戻らないことでお腹がたるむことがあるのです。
また、避妊手術では子宮を取り除くため、余った皮がたるむ原因になりえます。
肥っていたねこがダイエットをして痩せると、お腹の皮が余って垂れ下がることがあります。ダイエットに成功した「勲章」と思うと、お腹のたるみも誇らしく見えてきますね。
お腹がたるんでいるのは、肥満や病気だったから…ということもあるため注意が必要です。
たるんでいる皮を触ってみて、皮だけであれば問題ありません。
しかし、脂肪やしこりが触れる場合もあります。また、皮かと思っていたら、お腹の中が腹水などで膨れていることもあります。
心配な場合は、獣医師に相談しましょう。
先ほどご紹介した通り、ルーズスキンかと思っていたら病気だったということもありえます。
特に、ルーズスキンと間違えやすいねこの病気を以下にご紹介します。
お腹にある臓器に腫瘤(しこり)ができると、お腹が膨らむことがあります。
良性のものもありますが、悪性のものもあるため、病院で検査を受ける必要があります。
お腹の中に水がたまると、お腹が膨らみます。理由としては以下のようなものが挙げられます。
いずれも重篤な状態であるため、必ず獣医師の診断を受けましょう。
腸の病気もお腹が膨らむ原因になります。たとえば「腸閉塞」もその一つです。
腸閉塞はねこがおもちゃやひもなどの異物を食べる、腸ヘルニアや腸管のねじれなどの腸の異常など、さまざまな原因でおこりえます。腸閉塞になると腸内にガスや液体が溜まり、お腹が膨らんで見えることもあります。
また、極度の便秘により巨大結腸症になり、おなかに溜まった便やガスでお腹が膨らむことがあります。
お腹が膨らむとともに、下痢や便秘、吐き気、嘔吐といった体調不良が見られる場合は、動物病院で診察を受けましょう。
お腹(消化管)に寄生虫がいると、ねこのお腹が膨らむことがあります。
代表的なものとしては猫回虫があります。症状はそれほど強いものではありませんが、大量に寄生するとおなかが膨らむとともに、嘔吐や下痢、子ねこの場合は発育不良の原因となるため注意が必要です。
動物病院で糞便検査を行い、駆虫薬を処方してもらうことで駆除可能です。
ねこのお腹がたるんでいる理由について解説しました。
ねこのお腹のたるみは「ルーズスキン」と呼ばれるもので、ねこの生活に役立つ、ごく自然な特徴です。また、歩くたびにタプタプ揺れるお腹の皮はとても愛らしく、ねこの大切なチャームポイントといっても良いでしょう。
しかし、中には病気や肥満が原因で、お腹がたるんでいるように見えることもあります。
ねこのお腹を良く観察し、心配なことがあれば獣医師に相談しましょう。