たくさんのねこや犬を飼い、飼育不能になる「多頭飼育崩壊」。
ニュースにも取り上げられ、社会問題にもなっています。
この多頭飼育崩壊を防止するため、「多頭飼育届出制度」を導入する自治体も増えてきました。
この「多頭飼育届出制度」はどのような制度なのでしょうか。
また、なぜ多頭飼育はここまで大きな問題になっているのでしょうか。
今回の記事では、多頭飼育届出制度と、制度が生まれた背景について解説します。
多頭飼育届出制度は、ねこや犬の多頭飼育を制限する条例です。
条例は地方自治体の法律のようなものですので、導入の有無や内容は地方自治体によって異なります。
多頭飼育届出制度も自治体によって内容が異なりますが、一定数以上のねこ、犬を飼う場合は、知事への届出が義務付けられているという点はほぼ共通しています。
多頭飼育届出制度が定められた背景には、多頭飼育によるトラブルの深刻化が挙げられます。
多頭飼育による騒音、悪臭といった周辺環境の悪化、それに伴う近隣住民とのトラブルはたびたびニュースにも上がり、社会問題になっています。
また当然のことながら、度を越した多頭飼育は動物にとっても良い環境ではありません。
世話や飼育費用が不足することによる飢餓や病気、飼育スペースのキャパシティを越えた飼育によるストレスは、飼われている動物も不幸にします。
たとえ飼い主に悪気がないとしても動物虐待になってしまいかねません。
このように、飼い主のキャパシティを超えた数の動物を飼育し、経済的・労力的に破綻して飼育が不可能になることを「多頭飼育崩壊」といいます。
ここで重要なのは、多頭飼育崩壊の問題は決して個人だけに留まるものではないということです。
飼い主の貧困や心の病が多頭飼育崩壊を招くこともあります。こうした状況から、一人で抜け出せる人は多くありません。
多頭飼育崩壊の問題は、社会全体で考えていかなければならないのです。
こうした状況から多頭飼育の制限および状況の把握が重要視され、多頭飼育届出制度が誕生しました。
多頭飼育届出制度は条例であるため、制度名や届出の条件及び方法、罰則の内容などは地方自治体によって異なります。
今回は神奈川県の多頭飼育届け出制度を主な事例として挙げ、その内容をご紹介します。
※制度内容はいずれも2022年9月のものです。
【1】対象者
神奈川県の制度では、「10頭以上の犬やねこを飼育する人」が多頭飼育届け出の対象者と定められています。
また、他にも「県内で犬・猫(生後91日未満の犬、猫を除く)を合わせて6頭以上飼養又は保管する方(石川県)」「犬5頭以上またはねこ10頭以上もしくは犬およびねこの合計が10頭以上(生後91日未満のものは除く)(福岡市)」など、地方自治体によって対象者は異なります。
【2】届出事項
上記に加え、地方自治体によっては「使用施設の構造及び規模(大阪府)」「繁殖防止措置の内容(福岡市)」といった事項の届け出が必要になることがあります。
【3】届出方法
届出書に必要事項を記入し、飼育場所の所在地を所管する保健福祉事務所等に届け出ます。
郵送、FAX、Eメールで届け出ができる地方自治体もあります。
【4】罰則
神奈川県では罰則を設けていませんが、他の地方自治体では届け出を怠った場合は虚偽の届け出をした場合、過料が課される場合があります。
例えば、千葉県や大阪府では5万円以下、埼玉県では3万円以下の過料を支払わなくてはなりません。
【5】その他
住所や飼育頭数、飼育方法などが変更になった場合は、そのつど届け出が必要になります。
多頭飼育届出制度が導入される原因となった「多頭飼育崩壊」はどうして起こってしまうのでしょうか。
その主な理由は以下の通りです。
「1匹じゃかわいそうだから」「おなかをすかせているねこを見るとついご飯をあげてしまう」といった理由で、安易に複数のねこを飼ったり、野良猫にごはんをあげたりする人がいます。
ねこは単独で行動する動物であり、1匹でも問題なく飼うことができます。
また、野良猫を安易に餌付けすると、その場にいついて周囲にフンをしたり、庭を荒らしたりするなど、近隣トラブルの原因になってしまいます。
さらに、多頭飼育や野良猫を集めることで子ねこが増えてしまうことにもなります。
ねこを飼ったり餌付けしたりするのであれば、そのねこが幸せになるよう責任を持たなくてはなりません。
そのためにもねこに関する知識が必要になります。
ねこは非常に繁殖力の高い動物です。
1匹のメスねこを飼い、自由に繁殖ができる状態にしておくと、1年後には20匹、2年後には80匹、3年後には2000匹以上にも増えてしまいます。
避妊・去勢手術をしない理由はさまざまですが、手術費用がない、もしくは「動物は子どもを産むのが自然」「健康な体にメスを入れたくない」といった信条によるものが多いようです。
たとえ飼い主が適切な飼育をしたいと考えていても、避妊手術・去勢手術をするための費用がない、病気や高齢などにより病院に連れて行けないといった理由でできないというケースもあります。
また、現在では多頭飼育は心の病気によるものであるともいわれています。
一種の強迫性障害のようなもので、自分のキャパシティを超えた数の動物を集め、飼養してしまうのです。
このような人を「アニマルホーダー」といいます。
アニマルホーダーは自覚がないため、自力でその状態から抜け出すことは困難です。
周囲の人や行政の働きかけがあって初めて解決する問題であるといえるでしょう。
多頭飼育届出制度は多頭飼育崩壊を防ぐ手段にはなりえますが、それだけでは完璧ではありません。
制度以前に、一人ひとりが多頭飼育崩壊を重大なことと受け止め、防止するために努力することが大切です。
それでは、多頭飼育崩壊を防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか。以下に詳しく解説します。
ねこに限らず、動物は1匹より2匹、3匹と複数飼うと世話が大変になります。
単純に数が増えるだけではなく、複数飼うことで管理が大変になるためです。
たとえば、仲が悪いので別の部屋で飼わなければならない、1匹が病気で療法食になったため、ごはんを2種類用意しなくてはならないといった事態も起こりえます。
また、もちろんお金もかかりますので、飼育が難しくなり管理ができなくなった結果、多頭飼育崩壊に陥ることがあります。
何匹ねこを飼えるかは、飼い主のスキル、割ける時間や費用、それぞれのねこの性格や健康状態によっても変わりますが、2匹目を考える時点から、本当にお迎えしても良いのか、じっくり考えなくてはなりません。
先ほどご紹介したとおり、ねこの繁殖力はすさまじく、あっという間に子どもを産んで増えてしまいます。繁殖による多頭飼育崩壊を防ぐためには、避妊・去勢手術が重要です。
地方自治体によっては、避妊・去勢手術に補助金を出している所もありますので、利用すると費用負担を減らせます。
たとえ自分が気をつけていても、近所の人が多頭飼育崩壊を起こしてしまうことがあります。トラブルの原因になりますし、何より身近で不幸になっているねこを見るのは辛いものです。
先ほどご紹介したとおり、多頭飼育崩壊の影には心の病が隠れていることもあります。
また、一度動物が増えてしまうと、一人では対処がしきれない、どうすれば良いか判断できないといったことも起こりえます。
近所の人が多頭飼育崩壊を起こしている、または起こしそうな場合はできる限りサポートをしてあげましょう。
そのためにも、普段からコミュニケーションを取り、相談しあえる間柄になっておくことが重要です。
多頭飼育崩壊は飼い主もペットも不幸にするうえ、騒音や悪臭といったトラブルによる周辺環境の悪化、近隣トラブルを引き起こす恐れがあり、現在では社会問題にまで発展しています。
多頭飼育崩壊の裏側には、飼い主の知識の不足や責任のなさがありますが、飼い主の貧困や高齢化、心の病など、飼い主本人だけではどうしようもない問題が隠れている可能性があります。
多頭飼育届出制度は、違反者を罰するための制度ではありません。上記のような問題を抱えている飼い主が、行政によるサポートを受けられるようにするためのものなのです。
自身が対象者である場合は必ず届け出をするのはもちろんのこと、近隣で多頭飼育によるトラブルを抱えている人がいる場合は行政に相談しましょう。