愛猫が病気やけがになり、治る見込みのない状態になった時は、「安楽死」を行うのも一つの選択肢です。
大切なねことのお別れなんて考えるのも辛いですが、ねこが苦しむことなく穏やかに最後の時を迎えられるよう、飼い主として一番良い方法を考えなくてはなりません。
今回の記事では、安楽死の費用や行う際の判断基準、注意点について解説します。
安楽死とは、化学的または物理的な方法によって、苦痛を与えずに心機能・肺機能を停止させることで、病気やけがによる苦痛から解放することを目的に行われるものです。
まずは、安楽死の方法やかかる費用について解説します。
安楽死の方法や利用する薬剤などは病院によって異なりますが、おおむね以下のような流れで進行します。
麻酔をした時点で、ねこの意識は完全になくなっているため、苦痛を感じることはありません。また、安楽死の薬剤が投与されると30秒程度で亡くなります。
多くの動物病院では、処置の間中ずっとねこを抱いていられます。
かわいがってきたねことの別れは悲しいですが、ねこの温もりを感じながら、静かに別れの時を迎えられるでしょう。
安楽死にかかる費用は動物病院によって大きく異なりますが、一般的には5000円~3万円程度かかると考えておくと良いでしょう。
中には飼い主に安楽死を慎重に検討してもらうため、あえて処置費用を高めに設定している動物病院もあるようです。
治療ではないため、ペット保険は基本的に使えません。
安楽死の理由はさまざまあり、中にはねこの命を軽んじるような、飼い主の勝手な理由によるものもあります。
安楽死はねこの苦痛を取り除くために行うものであり、決して飼い主が楽をするためのものではありません。
それでは、飼い主が安楽死を選択する主な理由と、その問題点について解説します。
安楽死を選択する理由として最も多いのが、ねこの健康上の理由です。
上記のような理由で、ねこが痛みや不自由な生活に苦しんでいる様子を見るのは、飼い主としても辛いものです。
そのような時、安楽死は、ねこと飼い主を苦痛から解放する一つの手段になるといえます。
しかし、ここで難しいのが、「ねこ自身が自分の状態をどう思っているか分からない」という点です。
ねこは自分自身の治療方針を選び、それを伝えるということができません。それに加え、ねこは苦痛を隠す傾向にあるため、どの程度痛みや不自由を感じているのか分からない点も判断を迷わせる理由になります。
そこで判断基準になりうるのが、「ペインスケール」や「HHHHHMM」です。
ペインスケール:動物の見せるサインから、痛みの程度を把握するための評価基準です。
例えば、ねこの場合は「横になって緊張もしくはじっとしている」「特定の部位を触ると怒る、うなる、かみつくといった行動をする」といったサインから、痛みの程度を推し量ることができます。
HHHHHMM:5つのH(Hurt;痛み、Hunger;飢え、Hydration;水分、Hygiene;衛生、Happiness;幸せ)と、2つのM(Mobidity;幸せ、More good days than bad days;状態が悪い日よりも良い日の方が多い)を使い、動物の幸福度を測る評価法です。
上記の7つの項目について最良の場合は10点、最悪の場合は0点といった10点満点で評価し、合計が35点以上であればある程度の生活の質は保てていると判断されます。
上記のような基準で判断をするのは結局人間であり、ねこの状態を完全に正確に把握できるとは限りません。
とはいえ、ひとつの目安にはなるでしょう。
爪とぎをする、おそそうが多いといった問題行動があるという理由で安楽死を考える飼い主もいます。
特に現在は、医療の発達によりねこの長寿化も進んでいます。その結果認知症になり、夜中に大声で鳴いたり、飼い主に対して凶暴になったりするねこもいます。
認知症が原因の問題行動は矯正することができないため、飼い主にとってはいつまで続くか分からない悩みの種になってしまうでしょう。
しかし、認知症による問題行動は薬である程度緩和が可能です。
また、健康なねこの爪とぎやそそうは、辛抱強いトレーニングで改善することができます。
まずは獣医師やトレーナーに相談して、問題行動を少なくできないか検討することが必要です。
失業や離婚などでねこにお金をかけられなくなった、病気になったねこの治療費が払えないといった経済的な問題も、安楽死を選択する理由になっているようです。
がんやFIPといった重大な病気は治療に時間がかかるうえ、多額の治療費が必要です。
その額は数百万円以上にも及ぶことがあり、支払いが難しいと感じる飼い主もいるかもしれません。
支払いが不可能なほど治療費が高額になるようでしたら、まずは獣医師に相談しましょう。
違う治療を提案してくれるかもしれません。
ねこにどれだけお金を払えるかは飼い主の経済的事情によって異なりますが、一度飼い主になった者の責任として、最善を尽くせるように努力しなくてはならないでしょう。
引越しや出産、ねこアレルギーの発症といった飼い主側の都合で安楽死を選択するケースもあります。
中には「飼ったけど思っていたのと違った」という驚くような理由で安楽死を希望する飼い主もいるようです。
そのような理由でねこが飼えなくなった場合は、新しい飼い主を探すのが飼い主の義務です。
そうした努力をせず、安易に安楽死を選択するのは、たった一つの大切な命を軽んじている行為であるといわざるをえないでしょう。
安楽死は非常にデリケートな問題です。
不安や迷いが少しでもあると、「本当にこの選択でよかったのだろうか」と後々まで悩み続けてしまうかもしれません。
安楽死を検討する時や、安楽死を行う時の注意点を以下にご紹介します。
安楽死を選ぶかどうか迷った時は、まず信頼できる獣医師に相談しましょう。
今後の予後や治療の過程で生じる苦痛などに配慮したうえで、適切なアドバイスをくれます。
また、安楽死に関して配慮のある獣医師を選ぶことも重要です。
このような獣医師に安楽死を任せてしまうと、後々まで悲しみや後悔を引きずることにもなりかねません。
獣医師に納得がいくまで説明を受け、疑問点は質問し、愛猫の最期を任せられる獣医師であるかどうかを見極めましょう。
家族でねこを飼っている場合は、治療や安楽死に関する意識を統一させておきましょう。
反対している家族がいる中で安楽死をしてしまうと、家族関係が悪くなってしまう恐れがあります。
愛猫も自分のために大好きな家族の仲が悪くなるなんて悲しいはずです。
辛いことですが、しっかり話し合いをして、家族全員が納得をしたうえで安楽死を選ばなくてはなりません。
治療法がないと言われた、治療費がかかり施術ができないという場合は、他に打つ手がないか考えることも重要です。
例えば、セカンドオピニオンを受けてみる、クラウドファンディングを募るといった方法もあります。
安楽死の選択は非常に難しい問題です。
行うにせよ、行わないにせよ「その選択で良かったのだろうか」と悩み続けてしまうこともあります。
その中で「愛猫のために全力を尽くした」という思いがあれば、ほんの少しでも気持ちが軽くなるかもしれません。
安楽死の選択は飼い主にとって非常に辛いもので、通常のお別れよりも強いペットロスになってしまう場合もあります。
愛猫とのお別れは悲しいですが、それは一緒にいた時間が素晴らしかったということに他なりません。
愛猫が亡くなる前に写真をたくさん撮る、好物のおやつをあげる、抱きしめて感謝の気持ちを伝えるなど、お別れの前に温かな思い出を作りましょう。
大好きな飼い主の愛情を感じることができれば、ねこも安心します。
ねこの安楽死について解説しました。ねこは自分の意思を言葉にして話すことができず、苦痛を表に出すことも少ないため、安楽死の判断は非常に難しいものです。
しかし、ねこにとって最良の選択ができるのは、やはりそのねこを愛し、家族として一緒に暮らしてきた飼い主です。
安楽死を選ぶにせよ、自然に任せるにせよ、愛猫を想い、真剣に考えた飼い主の選択であれば、間違っているということなどありえません。
愛猫にもしものことがあった場合は、信頼できる獣医師や家族と相談しながら、お別れの方法を考えてあげてください。
そうすれば、どのようなお別れの形になったにせよ、愛猫にとっても飼い主にとっても、最も良い選択肢になるのではないでしょうか。