獣医学の発達により、ねこも長生きができる時代になりました。しかしその反面、人間と同じように認知症になってしまうねこも増えています。ねこの認知症にはどのような症状があるのでしょうか。また、愛猫が認知症になったらどのようなケアをすれば良いのでしょうか。今回はねこの認知症についてお話します。
認知症とは、脳細胞の減少によりさまざまな認知機能不全を起こすことを指します。
原因としては、主に加齢が挙げられます。脳細胞は一度成長が終わると、二度と増えることはありません。加齢により脳細胞が劣化すると、認知機能が衰え認知症になります。
ある調査では、11~14歳のねこの28%、15~21歳のねこの49%で認知機能の低下が見られるとの報告もあります。認知機能の低下=認知症ではありませんが、シニアになると多くのねこに認知症の兆候が現れ始めるということが分かります。
また、ストレスも関係していると考えられています。ストレスを感じると脳内で酸化物質の蓄積が促進されたり、脳の血管が収縮したりすることで、脳細胞に悪影響を与えるといわれています。
獣医学の発達によりこれまで治療が難しかった病気でも治るようになったこと、またワクチン接種や避妊手術が浸透したことから、ねこの寿命は延びつつあります。
しかしその反面、認知症を発症するねこも増えてきました。ねこの認知症はまだ研究段階であり、認知症になりやすいねこの特徴や予防法などははっきりと分かっていません。
ねこの認知症の症状を示す指標として、「DISHA」というものがあります。これは認知症の症例を示す5つのカテゴリの頭文字をつなげたもので、各項目を定期的にチェックすることで、認知症の兆候にいち早く気づくことができます。
【1】D:Disorientation(見当識障害)
よく知っているはずの場所(家の中など)で迷子になる、道を間違える、落ち着きなく家の中を歩き回るなど、周囲の空間や環境を認識できなくなる状態を指します。
【2】I:Interaction(接し方の変化)
飼い主や同居しているほかのねこと関わらなくなる、関わり方が変わる(怒りっぽくなる、異常につきまとう、指示を聞かなくなるなど)など、コミュニケーション能力に変化が見られる状態を指します。
【3】S:Sleep-wake cycle(睡眠覚醒周期)
寝る時間になっても寝ず、夜中に徘徊をする、逆に寝過ぎるなど、睡眠サイクルが異常になる状態を指します。
【4】H:House soiling(トイレの粗相)
ベッドなどトイレ以外の場所で排泄する、突然おしっこをもらすなど、排尿・排便コントロールに問題が生じた状態を指します。
【5】A:Activity(活動の変化)
周囲のものに関心を示さなくなる、周囲のものを怖がる、無目的な活動(うろうろする、何もない場所を見つめる、過剰なグルーミングなど)をする、食欲が増進もしくは低下するなど、目的をもった活動の低下・無目的な活動の増加を指します。
愛猫の行動がおかしく、認知症かもしれない…飼い主からすると悲しいことですが、愛猫はもっと大きな不安を抱えています。大切な愛猫が最後まで安心して暮らせるよう、ケアをしてあげましょう。愛猫の認知症が疑われるときにすべきことを以下にご紹介します。
まずは動物病院で診察を受けましょう。認知症のように見えても、他の病気が隠れていることもあるためです。
そのため、まずは一般的な血液検査や尿検査といった健康診断が行われることもあります。
病歴や普段の生活で気になる点などを獣医師に尋ねられますので、メモなどにまとめておくとスムーズに診察をしてもらえるでしょう。
症状によっては神経検査や脳のMRI、CT、レントゲン検査などを行うこともあります。麻酔が必要になり、ねこの体に負担がかかる場合もありますので、獣医師と相談しながら検査をするかどうかを決めましょう。
認知症の診断が下りたら、治療方針を決定します。治療法としてはサプリメントやフードの使用や投薬などがあります。また、認知症のために不安が強くなっているねこには、抗不安薬が処方されることもあります。
いずれにせよ、ごく初期でない限り認知症を「治す」ことは困難です。認知症の進行を遅らせる、もしくは認知症によって生じる心身の不調や問題行動に対処する療法がメインになります。
認知症による問題行動は飼い主を困らせるだけではなく、思わぬ事故を引き起こしてしまう原因になります。生活環境を整え、ねこが安全に過ごせるようにしましょう。
例えば、同じ場所をウロウロして、最後には家具の隙間などにはまってしまう場合は、丸いビニールプールやサークルにねこを入れると安全です。
また、おそそうが増えている時はトイレの数を増やしたり、ふちの低いトイレに替えたりといった対処ができます。
工夫次第で飼い主もねこも快適に過ごせます。今は便利な介護グッズもありますので、活用すると良いでしょう。
認知症になると問題行動が増えるため、飼い主もイライラしてねこを叱ったり、その変わりように戸惑ってしまったりすることもあるかもしれません。しかし、そのような飼い主の態度にストレスを感じると、さらに認知症が進んでしまう恐れがあります。
認知機能が低下したからといって何も感じないわけではありません。それどころか、体の衰えや不調により、強い不安を感じている可能性があります。
ねこがストレスや不安を感じないよう、問題行動があっても優しく接し、スキンシップをしたり、おやつをあげたりと、喜ぶことをしてあげましょう。精神が安定すると認知症の症状も和らぎます。
先ほど触れたとおり、ねこの認知症は現在研究段階であり、予防法も確立していません。
ただ、認知症の原因である脳の劣化を遅らせるためにできることはいくつかあります。以下に詳しくご紹介しましょう。
DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸類やビタミンEは脳内物質の酸化を抑制し、脳の健康に良いとされています。それらの成分が多く入ったキャットフードやサプリメントを取り入れることで、ねこの認知症を遅らせることができるかもしれません。
適度な運動や遊びは、脳の活性化やストレス解消に役立ちます。特にシニアになると運動量が減りますので、飼い主が積極的に誘って運動や遊びをさせてあげましょう。
工夫しないとごはんが出てこない知育玩具やキャットタワー、キャットウォークなどを取り入れ、ねこが自然と体と頭を使うような環境にすることも重要です。ただし、シニアねこは身体能力が低下していますので、高いところから落ちる、足を痛めるといった事故が起きないよう十分に気をつけましょう。
先述の通り、ストレスも認知症の原因になりえます。ねこのストレスの要因としては環境の大きな変化(引っ越しや飼い主の結婚、出産など)、飼い主や同居動物との関係、騒音、運動不足などが挙げられます。ストレスが溜まると食欲不振やおそそう、過剰なグルーミングや夜鳴きといった、認知症に似たストレスサインを出すねこもいます。
この時点であれば、ストレスの原因を取り除けば問題行動は収まります。ねこの様子をよく見て、生活環境を整え、ねこが快適に過ごせるようにしてあげましょう。
ねこの認知症について解説しました。元気だったかわいいねこが年老いて認知症になる、というのは飼い主にとってはなかなか受け入れがたいことかもしれません。さらに夜鳴きやおそそうといった問題行動を起こすようになると、心身ともに負担もかかります。
しかし、認知症になったねこは今まで以上に飼い主の愛情やケアを求めています。愛猫が安心して過ごせるよう、生活環境を整え、ストレスの要因を取り除いてあげましょう。
しかし、無理は禁物です。あまりに「ねこファースト」になり、介護に手をかけ過ぎると、知らず知らずのうちに飼い主にも疲労やストレスが溜まります。その結果お世話ができなくなったり、イライラしてねこに当たったりしてしまうようでは本末転倒です。
認知症の介護はいつ終わりが来るか分かりません。獣医師や便利な介護グッズの助けを借りながら、無理のない程度にケアをしてあげましょう。