温かくなってくると、私たち飼い主を悩ませるのがノミやダニの対策。
室内飼いだから、と油断している飼い主さんも多いと思いますが、ノミやダニはちょっとした隙間や人間にくっついて室内に侵入します。
つまり、室内飼いでも安心はできないのです。
今回はそんなノミやダニが媒介する感染症や寄せ付けないための対策について紹介します。
ねこに寄生して血を吸うだけでなく、さまざまな病気を媒介するノミやダニ。
ねこはもちろん、犬などのほかのペットや飼い主の健康を害することさえある厄介者です。
まずは、ねこに寄生するノミやダニにはどんな種類がいるのか、またどういう経路でねこに寄生するのかについて知っておきましょう。
ねこに寄生するノミとしては、以下の3種類がよく知られています。
ノミはあまり選り好みをしないので、ネコノミは犬や人間、うさぎ、フェレットなどにも寄生します。
また、イヌノミやヒトノミがねこに寄生する場合もあります。
ノミは体長の100倍ほどのジャンプ力を持ち(と言っても20〜30cm程度ですが)、動物の体温や吐き出す二酸化炭素などに反応して簡単に飛び移ります。
ですから、散歩帰りのいぬや買い物帰りの飼い主に付着して室内に持ち込まれる場合があるのです。
たとえばペット可の集合住宅であれば、階段やエレベーターホールといった共有部分を経由してドアの隙間などから侵入することもありえます。
そのため、完全室内飼育であってもノミに寄生される可能性は充分に考えられるのです。
ノミの繁殖力はすさまじく、条件さえ整えば1匹が1,000個以上の卵を産み、早ければ2日で幼虫になります。
わずか10匹のネコノミが1ヶ月後には9万個の卵と10万匹の幼虫にまで増えた記録さえあるそうです。
しかも、低温下ではサナギの状態で1年以上過ごすこともあるので、一度侵入されてしまうと完全に駆除するのは大変です。
ねこに寄生するダニには、おもに以下の4種類と言われています。
マダニは野山だけでなく公園などの草むらにも生息している比較的大きなダニです。
春から秋にかけての暖かい時期に活発化し、動物の体温や吐き出す二酸化炭素、振動などを感知して付着して寄生します。
満腹になるまで血を吸ったマダニは3,000〜4,000個の卵を産むと言われており、放置しておくとあっというまに増殖してまいます。
ヒゼンダニ、ミミヒゼンダニ、ツメダニはおもに宿主となったねことの接触によって伝播します。
サイズが小さくて見つけづらいうえに繁殖力が強いため、気づいたときにはかなり状況が悪くなっていることも多いです。
いずれのダニもさまざまな細菌やウイルスによる感染症や疥癬などを引き起こすので注意が必要です。
また、ダニは人間にうつる病気を媒介することも知られています。
マダニ由来の日本紅斑熱やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)による死者も報告されていますので、決して油断はできません。
ねこに寄生するノミが媒介する病気のうち、代表的なものが「アレルギー性皮膚炎」や「瓜実条虫症」です。
また、飼い主である人間にとって危険な「ねこひっかき病」もよく知られています。
ここではそれぞれの病気で見られる症状や感染した際の対策、治療について説明します。
ノミはねこの血を吸う際にねこの体に注入する唾液には血液の凝固をさまたげる成分が入っており、これがアレルギーを引き起こす原因となります。
ノミアレルギーが原因で発症すると考えられる粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん)は、背中から腰、しっぽにかけて、また内股にブツブツが大量にできる病気です。
多くは強いかゆみをともない、執拗に舐めたりかきむしったりするために脱毛や出血、ただれなどが生じることがあります。
ねこによっては1匹のノミに1回かまれただけでアレルギーを起こすこともあるため油断はできません。
また、子ねこや体が弱っているねこに大量のノミが寄生すると貧血や鉄分不足におちいる場合もあります。
ノミ取りコームなどで物理的に取りのぞくか、シャンプーするなどで駆除できますが、ノミ駆除用の薬を併用するのが効果的です。
瓜実条虫症(うりざねじょうちゅうしょう)はサナダムシの一種である瓜実条虫という寄生虫が原因の病気です。
通常は症状はありませんが、重度になると下痢や血便などの消化器症状が見られます。
瓜実条虫の卵をノミの幼虫が食べることで感染し、ノミの体内で成長。感染したノミがねこに寄生して、グルーミングの際などにねこの体内に侵入する形で感染が成立します。
ねこのベッドや肛門まわりに白い米粒のようなツブツブが付着していたら、それは瓜実条虫のちぎれた断片かもしれません。
もし、ねこがお尻を気にして舐めているようなら瓜実条虫に寄生されている可能性があります。
駆虫薬を使うことで駆除は可能ですが、同時にノミの駆除もおこないます。
また、ねこだけでなくいぬや人間にも感染するため、完全に駆除するまでに数ヶ月かかる場合もあります。
バルトネラ・ヘンセレ菌に感染したねこの血を吸ったノミが媒介して伝播する病気で、日本では9〜15%のねこが感染しているという報告があります。
通常、ねこには症状はあらわれません。そのため、感染が判明しても特に治療はおこなわれません。
しかし、人間がこの菌に感染したねこに噛まれたり引っかかれたりすると傷を受けた部位に赤い隆起ができ、発熱や頭痛、食欲不振のほか、リンパ節が腫れたり、まれに痙攣などの症状があらわれます。
免疫機能が低下している人の場合、感染が全身に広がって死に至ることもあります。
そのため、免疫機能の状態によっては抗菌薬の投与などが必要となります。
ねこ(特にのらねこや子ねこ)に引っかかれたり噛まれたりした際は、傷口を流水でよく洗って菌の排出をうながしてください。
腫れなどの症状が出た場合は受診をおすすめします。その際は、かならずねこに引っかかれた、噛まれたと伝えてください。
ノミ同様、ダニもさまざまな病気を媒介します。
「ねこヘモプラズマ感染症」のような比較的軽いものだけでなく、強いかゆみが生じたり、脱毛などの症状があらわれる「耳疥癬」「ツメダニ症」、人間にも感染して命をおびやかす「SFTS」もあります。
それぞれの病気で見られる症状や感染した際の対策や治療について説明します。
赤血球に寄生するヘモプラズマによって起きる感染症です。
以前はリケッチアの一種のヘモバルトネラだと考えられていたのが遺伝子配列の解析の結果、マイコプラズマの一種であることが確認され、名前が変更されました。
ノミやダニを介して感染するほか、ねこ同士の喧嘩などによる感染や、母ねこから胎盤をとおして感染する母子感染も確認されています。
ねこの体内に侵入したヘモプラズマは赤血球に寄生します。
寄生された赤血球は体内で異物として壊されたり、あるいは寄生自体に耐えきれずにみずから壊れたりするため、一時的に赤血球不足におちいるのです。
この状態を溶血性貧血と言います。
おもな症状は、発熱や元気の消失、食欲不振など。通常、抗生物質の投与で治りますが、症状が重い場合はステロイドの投与や輸血などが必要になる場合もあります。
ミミヒゼンダニはねこの外耳道に寄生するダニで、これによって引き起こされるのが耳疥癬(みみかいせん)です。
おもな感染経路は、すでにミミヒゼンダニに寄生されているねことの接触です。外飼いでほかのねことの接触機会が多い、多頭飼いで衛生状態に問題があるような場合はリスクが高くなります。
ミミヒゼンダニは皮膚表面のフケやリンパ液を栄養にし、排泄物のせいで黒っぽい耳垢が大量に出ます。
強いかゆみが生じるため、激しく頭を振る、壁などに耳をこすりつける、後肢で掻くといった行動が見られます。
症状がひどくなって中耳炎や内耳炎に至ると運動に障害が出る場合もあるので注意が必要です。
やはり繁殖力が強いため完全に駆除するには何度も駆除薬を塗ったり、耳掃除をおこなわなくてはなりません。
治ったと思っても卵が残っていて再発することもありえますから油断はできません。
ネコツメダニは大きなカギ爪を皮膚に引っかけて寄生するダニで、皮膚の上を歩きまわる様子を肉眼でもとらえることができることから「歩くフケ」とも呼ばれます。
やはりすでにネコツメダニに寄生されているねことの接触やベッド、カーペットなどを介して伝播するほか、ノミやシラミ、ハエなどが媒介することもあります。
ねこの症状は比較的軽めで、あまりかゆがったりはしません。
寄生された部位に大量のフケが出たり、湿疹やカサブタができたり、あるいは脱毛などの症状があらわれます。
人間が噛まれると強いかゆみや丘疹、水疱などのダニ刺咬性皮膚炎が起きますが、人間の皮膚上では繁殖できないため、ありがたいことに症状は一過性ですむようです。
治療は内服薬などでおこないますが、卵には効果がないため、何度か繰り返して投与する必要があります。
また、ねこの体から離れても数日程度は生きられるので、再感染しないように室内の清掃を徹底します。
2011年に初めて特定された新種のウイルスによる感染症で、おもにマダニが媒介します。
感染しても多くのねこは無症状ですが、血小板や白血球の減少などが起き、元気・食欲の消失、黄疸、発熱、嘔吐などの症状があらわれる場合があります。
現時点では有効な治療薬はなく、国立感染症研究所によると致命率は60〜70%というきわめて高いものとなっています。
SFTSはいぬや人間にも感染します。
ウイルスを持つねこやいぬに噛まれたり、唾液や糞・尿などからが感染源です。
人間の場合も血小板、白血球の減少が起き、発熱や嘔吐、下痢などの消化器症状が見られ、厚生労働省の発表では致死率10〜30%程度にものぼります。
やはり有効な治療薬はないため、徹底したマダニ駆除のみが対策となります。
ノミやダニからねこを守るには、予防薬を使うのがもっとも効果的です。
錠剤などの内服タイプもありますが、薬液を首のうしろに滴下するスポットタイプのほうがあつかいは楽でしょう。
たいていは1ヶ月に1度程度で効果が得られますし、ノミやダニだけでなく、フィラリアなどの寄生虫を予防できるタイプも選べます。
ただし、ノミやダニは思っているよりも簡単に家の中に入り込んできますし、中には人間に感染する病気を媒介することもありますから、ねこの予防薬以外の対策も必要です。
ノミは成虫になるとねこに寄生しますが、卵〜幼虫〜サナギのあいだはカーペット、ねこのベッドやクッションなどにひそんでいます。
ダニも種類によっては床に落ちたフケなどを食べて生き延びる可能性があります。
室内のノミやダニ対策としては、こまめに掃除機をかける、寝具類をお湯で洗う、天日で干すなどが効果的です。
日ごろから家の中を清潔にしておくことがノミやダニの寄生、媒介する感染症の予防につながるのです。
ねこだけでなく、人間にも寄生するノミやダニは、命に関わる感染症を媒介することもあるやっかいな存在です。
ノミやダニはどんなに徹底した対策をしているつもりでも、ちょっとした隙間や人間にくっついて室内に入ってきます。
しかも、目に見えにくいので、気がついたときには悲惨な状態になっていることも多いのです。
だからこそ、ねこへの感染対策を徹底する、掃除をまめにするなどの日頃からの対策が重要になってくるのです。
面倒だな…と感じることもあるかもしれませんが、大切な家族(人間も含めた)を守るためにもしっかりと対策をしましょう。