アニマルセラピーといえば犬やイルカが有名ですが、実はねこも立派なセラピストとして、さまざまな現場で活躍しています。
ただその場にいるだけで癒されるねこの存在は、多くの人に元気と笑顔を与えているのです。
今回の記事では、ねこによるセラピーの効果や、ねこ特有の癒しのパワーについてご紹介します。
まずは、アニマルセラピーについて簡単にご紹介しましょう。
アニマルセラピーは、学術的には「動物介在介入(Animal Assisted Interventions;AAI)と呼ばれています。
人が人の心身を援助する際、動物を組み入れるあらゆる介入の総称を指します。
【1】動物介在活動(Animal Assisted Activities;AAA)
情緒的な安定やQOLの向上を目的とした動物とのふれあい活動を指します。一般的に「アニマルセラピー」として行われている活動の多くがこのAAAです。
【2】動物介在療法(Animal Assisted Therapy;AAT)
動物とのふれあいにより治療・介護の効果を上げることを目的とした活動を指します。
【3】動物介在教育(Assisted Education;AAE)
主に子供の心を育むことを目的として、動物を小学校などの学習の場に介在させる活動を指します。
アニマルセラピーには、以下のような効果があるとされています。
【1】生理的効果
動物に触れることで血圧やコレステロール値の低下、病気の回復といった効果が期待されています。また動物をなでたり、ブラッシングなどの世話をしたりすることで、神経や筋肉組織のリハビリにもつながります。
【2】心理的効果
動物と触れ合いリラックスすることで不安が減り、自信と意欲が回復します。また命の大切さを知り、自尊心や責任感などが育まれます。
【3】社会的効果
動物を通じて他の人とコミュニケーションを取ることで、言語活性化につながります。
のんびり屋で気まぐれなねこですが、その特性を活かしてさまざまな現場で人の体と心を癒しています。
セラピーキャットが活躍する場面とその効果として、代表的なものをいくつかご紹介します。
介護施設に入所している高齢者、特に認知症の方に対して、セラピーキャットは心身ともに良い影響を及ぼします。
長く介護施設に入居していると、生活が単調になり、体を動かしたり、他の人とコミュニケーションを取ったりする意欲が減ってしまいます。
その結果日常生活が行いにくくなり、不安やいらだちから精神状態も不安定になります。
セラピーキャットに話しかけたり、セラピーキャットをきっかけに飼っていたねこの思い出話をしたりすることで会話が増え、他の人ともコミュニケーションを取ることができます。
また、ねこをなでたり抱いたりして手を動かすのも、脳の活性化や心の安らぎにつながります。
環境省では自治体などが保護したねこや犬を特別養護老人ホームや病院に提供する事業を検討しています。
このような活動は患者の心身を癒すだけではなく、保護犬・ねこの「活躍の場」を広げるのにも役立つと期待されています。
自閉症児のケアにもねこはすばらしい力を発揮すると期待されています。
その理由としては、ねこは動作がゆっくりで大きな声を出さないことから、感覚過敏であることが多い自閉症児に対して威圧感を与えないことが挙げられます。
また、もう一つの理由としては、アイコンタクトを好まないというねこの性質にあります。
犬は主人である人間の意図や指示を読み取ろうとして視線をしっかりとらえます。
アイコンタクトを苦手とする自閉症児にとっては、犬のそうしたひたむきな目の動きが負担になる場合があります。
しかしねこは、「目を合わせる=敵意を示す」であるため、アイコンタクトを避けようとします。
それが自閉症児にとっては好ましいのではないかと考えられているのです。
ねこは社会的なつながりや言語でのコミュニケーションを求めず、ただそっと寄り添い絆を深めてくれます。
そうしたねこの存在は自閉症児を孤独から救い、心を安らがせてくれるのかもしれません。
セラピーキャットは病院でも活躍し、人の心身を癒しています。
人と動物がふれあうと、お互いに「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。
オキシトシンは「愛情ホルモン」、「絆ホルモン」とも呼ばれ、ストレスや不安を軽減してくれるといわれています。
それに加え、ねこが人の体の痛みを和らげたという事例もあります。
あるホスピスでは、モルヒネでも痛みを取りされないほどの肺がんに苦しむ患者が、愛猫と会っている時は痛みから解放されていたという話もあります。
愛するねことの触れ合いは、何よりも効果的な痛み止めでもあるのかもしれません。
アニマルセラピーと言えばやはり有名なのは犬です。
人に忠実で純粋な愛情を向けてくれる犬の存在は、人の心を癒し、元気づけてくれます。
しかし、ねこにはねこ独特の魅力があり、犬とはまた違った特性を持つ優秀なセラピストです。
それでは、ねこが持つ癒しのパワーにはどのようなものがあるのでしょうか。主なものを以下にご紹介します。
犬は非常に活動的なため、大きく動いたり鳴いたりして人を驚かせてしまうことがあります。
しかしねこは落ち着ける状況であれば動きもゆっくりで、大きな声を上げることはありません。
人のひざに抱かれれば、気持ちよさそうにおとなしくしています。
そののんびりとした動きに癒される人も多いようです。
ねこの体は小さくて柔らかく、抱くと体にぴったり密着します。どんな体勢でも取れるため、車椅子ユーザーなど手足が不自由な人でも抱くことができます。
体の皮が良く伸びるため、手がうまく使えない人や子供が引っ張ってもそれほど痛がりません。
良く毛づくろいをするため、体臭もなく清潔な点もねこならではの魅力です。
犬のように一緒に遊んだり活動したりすることは難しいですが、抱っこして静かな時間を楽しむことができます。
温かく柔らかいねこの体は、人の心までもほぐし、ほっとくつろがせてくれることでしょう。
犬やイルカは人とのコミュニケーションや活動を楽しみます。
そのフレンドリーさがアニマルセラピーに向いているともいえます。
しかし、ねこは気ままで、人とそれほど積極的に関わろうとしません。
しかし、そのマイペースさが逆に好まれる場合もあります。
とくにうつ病などの精神疾患の人は、何かをするように促されることに苦痛を感じる人もいるため、マイペースなねこの動作を見てリラックスするという場合もあるようです。
マイペースなねこの姿は、「ありのままのあなたのままで良い」と語りかけてくれているようで、それも癒しの一つになるのかもしれません。
ねこは機嫌の良い時にのどをゴロゴロ鳴らします。
このゴロゴロ音を聞くと副交感神経が優位になり、幸せホルモンといわれる「セロトニン」が分泌され、心身のリラックス効果が得られます。
また、ゴロゴロ音には不安軽減や血圧低下、免疫力アップの効果もあり「副作用のない薬」と呼ばれているそうです。
フランスではねこのゴロゴロ音(フランス語では『ロンロン』)を取り入れた「ロンロン・セラピー」が行われています。
幸せそうな顔をしたねこがのどをゴロゴロ鳴らしているのを聞くと、人の心だけでなく、体も癒されるのですね。
ねこのゴロゴロ音のメカニズムや癒し効果については以下の記事でも詳しくご紹介しています。
ねこのセラピストとしての活躍の場や、その癒しの力をご紹介しました。
ねこは犬のように人と積極的に関わったり、遊んだりしようとはしません。いつもマイペースで気まぐれ、ごろごろと寝てばかりいます。しかし、心身に痛みを負っていたり、人に何かを求められ過ぎて疲れたりした時には、そのねこの気ままさが何よりの救いになるのかもしれません。
温かくて柔らかく、どんな腕の形にもすっぽりと収まり、静かに身を預けてくれるねこ。まるで「優しさ」が生き物の形をとって、そのまま胸の中に飛び込んできたかのような幸せな気持ちにさせてくれます。
ねこの持つ癒しパワーは、元気な人も病んでいる人も、子供も大人も関係なく、人の体と心を癒してくれるのです。