ねこは昔から人の生活に深い関わりを持っていました。
そのため、ねこに関係することわざや慣用句もたくさん生まれています。
そんなねこの言葉、「ねことば」、皆さんはどれくらい知っているでしょうか?
今回はメジャーな「ねことば」以外に、ユニークな時には深い「ねことば」をご紹介します。
まずは、誰もが知っている有名なねことばをご紹介します。
良く使われてはいますが「えっ、こんんな意味だったの?」とびっくりしてしまうものもあるかもしれません。
ねこに小判を与えてもその価値が分からないこと。
「どんなに価値のある貴重なものでも、その真価が分からないものには何の価値もなく、無駄になってしまう事」を指します。
似た意味の言葉に、「豚に真珠」、「馬の耳に念仏」などがあります。
非常に忙しく、些細な助けでもほしいという意味のことわざです。
同じくことわざに、「子供も猫よりまし」というものがありますが、これは「頼りない子供でもねこよりは役に立つ」という意味です。
どれだけねこが「頼りない」と思われていたかが分かります。
そんなねこの助けですら必要としている状態…どれだけ忙しいのか、考えるだけでも怖いですね。
「猫の手も借りたい」からといって、ねこを借りてくると、安全なすみっこにさっと逃げて、縮こまってしまいます。
ねこは縄張り意識の強い動物で、縄張りを離れると途端に弱気になります。
その様子から「普段と違っておとなしく、つつましい様子」を表す「借りてきた猫」という言葉が生まれました。
飼い主が家に帰ると、犬は大喜びでしっぽを振って熱烈歓迎してくれます。
それに対してねこは知らんぷり、お気に入りの場所で眠っている…そんな時、「犬は人につき猫は家につく」という言葉を思い出すかもしれません。
犬は人への恩を大事にしますが、ねこは住んでいる場所に執着するという意味です。
似た言葉に「猫は3年の恩を3日で忘れる」というものがあります。
しかしねこは決して薄情でも恩知らずでもありません。
ねこ好きの方はご存じのように、犬のように愛情をストレートに表現しないだけです。
そのツンデレなところが、ねこの魅力でもあります。
「猫をかぶる」とは、「本性を隠しておとなしそうな振りをする」もしくは「何も知らないふりをする」ことを例えた慣用句です。
しかし、ねこは決しておとなしい動物ではありません。活発であばれんぼうのねこもたくさんいます。
なぜ、「猫をかぶる」という言葉ができたのでしょうか。
その理由としては以下2つの説があります。
【1】ねこは獰猛な動物だが、飼うと甘えてくるなど意外な面を見せるため、二面性のある動物であると考えられていたことから。
【2】この場合の「ねこ」は「ねこだ(大きなむしろのこと)」を指し、むしろをかぶって知らんふりをする様子から生まれた言葉。のちに「ねこだ」が変化して「猫」となった。
「猫も杓子も」は「誰もかれも」、「何もかも」を意味する言葉です。
寛文8年(1668年)の仮名草子に「一休咄」に「生まれては死ぬるなりけりおしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も」とあり、そこからできた言葉、もしくはそれ以前からあった言葉だと考えられます。
しかし、なぜ「ねこ」と「しゃくし」が取り上げられたのか、由来ははっきりとしていません。
良くある説としては以下のようなものがあります。
【1】神主を表す「禰子(ねこ)」と僧侶を表す「釈子(しゃくし)」から変化した。
【2】女性を表す「女子(めこ)」と子供を表す「弱子(じゃくし)」から変化した。
【3】「ありふれたもの」の代表としてねこと杓子が使われている。
続いて、ねこの体にまつわる「ねことば」をご紹介します。
ねこの体の特徴を上手に慣用句やことわざに盛り込んであり、ねこを飼っている方なら「なるほど!」と思われるものばかりです。
「面積が狭いこと」を示す慣用句です。
ねこの額が狭いことから生まれた言葉です。
しかし、なぜねこの額なのでしょうか。
ねずみやスズメなど、もっと額の狭い動物はたくさんいます。
ねこの目や耳が大きく額が特に小さく感じられること、ねこが身近な動物として昔から親しまれていたから、などいろいろな説がありますが、由来ははっきりしていません。
ねこの目(瞳孔)は明るさや感情によって丸くなったり、針のように細くなったりと形が変わります。
女性の気まぐれで移り気な気持ちを例えた慣用句です。
しかし、例えに出ている「ねこ」こそ、気まぐれで移り気な動物です。
「ねこ心はねこの眼」と言った方が良いかもしれませんね。
ねこの鼻はにおいをキャッチしやすくするため、つねに湿っています。
それが「愛宕山」と同じく夏でも冷たく感じることから生まれたことわざです。
愛宕山とは京都北西にある山で、比叡山と並ぶ信仰の地とされています。
標高は924メートルとやや高く、猛暑になりやすい京都においては涼しく感じられたのでしょう。
雄大で荘厳な愛宕山と、小さなかわいいねこの鼻が同列に並べられているおもしろいことわざです。
冬に雨が降ると気温が上がることから、寒さの苦手なねこも喜んで顔を膨らませるという意味のことわざです。
三尺とは約90センチくらいですから、そんなにねこの顔が膨らんだらちょっとびっくりですね。
なお、未去勢のオス猫は顔が大きく膨らんだようになります。
これは男性ホルモンの影響で、ケンカの際にかまれてもダメージが少ないよう、頬の皮や内部が丈夫になるためと考えられています。
「才槌」というのは小型の木づちです。
ねこのお尻を叩くのに才槌は大き過ぎることから、小さなことをするのに必要以上の大がかりな手段を使うことを指します。
似た言葉に「牛刀を持って鶏を割く」があります。
ねこのお尻、とくにしっぽのつけねは神経が集まっている大事な部分です。
痛めると歩けなくなることもありますので、絶対に叩かないようにしましょう。
しかし、しっぽのつけねを軽くトントンしたり、なでたりする「お尻トントン」を喜ぶねこもいます。
優しく触れてみるのも良いでしょう。
役に立たないもの、なくても困らないものを例えた言葉です。
江戸時代、「ねこはしっぽが長いと猫又になりやすい」と信じられていたことから、ねこのしっぽを切るという風習がありました。
しかし、ねこにとってしっぽは体のバランスを取ったり、感情を表したりする大事な部分です。
飼い主を見てしっぽをピーンと上げ、プルプル震わせて喜ぶねこを見ると、とても幸せな気持ちになれますね。
次に、ねこの行動に関係する「ねことば」をご紹介します。
かわいいねこのしぐさを思い浮かべると、「うんうん、分かる」とうなずいてしまうかもしれません。
有名なねことばの一つです。ねこは顔を毛づくろいする際、前足を舐めてそれを顔やひげにこすりつけます。
濡れタオルで顔を拭いているのと同じようなものです。
この「顔を洗う」ことと、天候は全く関係がないわけではありません。
ねこのひげは非常に優秀なセンサーとなっており、空気中の湿度の変化を敏感にキャッチします。
湿度が上がるとひげの張りが悪くなるため、顔を洗って直しているのだと考えられています。
しかし実際は、ねこはとてもきれい好きで毎日顔を洗います。
そのため、天気予報としては信頼できないかもしれません。
「ねこにかんぶくろ」と読みます。
ねこの顔に紙袋をかぶせると、じりじりと後ずさりすることから、転じて尻込みをすることやある局面が後退することを指します。
ねこは狭いところが大好きで好奇心旺盛です。
小さな袋や箱に顔を突っ込んでしまい、抜こうとして後ずさりをするところを見たことがある飼い主さんも多いのではないでしょうか。
その様子はとてもかわいいのですが、事故が起こる恐れもありますのですぐに取ってあげましょう。
ねこにくるみのような丸いものを与えると、チョイチョイと手でつついたり、転がしたりして遊ぶことから、じゃれついたり、ちょっかいを出したりする様子を例えたことわざです。
昔はねこに、くるみをおもちゃとしてあげていたのかもしれません。
硬くてまん丸のくるみを「何ニャ?」とふしぎそうにチョイチョイして、コロコロ回して遊ぶ昔のねこの姿が目に浮かびますね。
最後に、人生を学べるちょっと深い「ねことば」をご紹介します。
または「猫を追うより魚をのけよ」ともいいます。
お皿の上の魚を狙うねこを何度も追い払うより、お皿を片付けてしまった方が早いということから、その場逃れのことをするより、根本を正すのが大事だという教えを説いたことわざです。
また、本来の意味とは違いますが「相手を変えようとするより、自分が変わる方が良い」という解釈もできます。
何らかの問題に直面すると目の前のことに気を取られがちですが、根本を見直し、自らが変わることで新しい答えが見つかるかもしれません。
「ねこはみつきをひととせとす」と読みます。
ねこの成長は早く、3ヶ月が人間の1年に当たることから、毎日を無駄に過ごさず、充実した生活を送らなければならないという戒めの言葉として使われています。
ねこの一生は人間と比べると短いですが、その一生を一生懸命生き抜いています。
そんなねこの姿を見ていると、自分もがんばらなくては!と勇気づけられます。
あくせく働くこともなく、のんびり眠っているねこの前世は悠々自適に暮らしていた長者だったのであろうという意味です。
人間がバタバタと走り回っている中で、なんの悩みもないようにヘソ天で眠っているねこを見ると、羨ましくも、ちょっぴり妬ましくも感じられるかもしれません。
しかし、時にはねこの隣でごろんと寝転んでみてください。
柔らかく温かい毛並み、ゴロゴロと慣らすのどの音を感じていると、悩みも忙しさも忘れて「長者」になったような気がしませんか?
何はなくとも、気持ち次第で誰でも悠々自適に過ごせる、ねこはそう教えてくれているのかもしれません。
ねこにまつわることわざや慣用句をご紹介しました。
どれもねこと人との関わりが感じられる、おもしろいものばかりです。
「ねことば」はまだまだたくさんありますので、興味を持った方はぜひ「ねことば」集めをしてみてください。