愛猫家からするとただただ可愛いだけのねこ。どんな行動でも愛おしく感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、庭を荒らされたり、車を傷つけられたりといった被害に悩んでいる人も少なくありません。
また、ねこは小さなハンター。野生動物を捕まえてしまうため、生態系を壊してしまう危険性もあります。
今回の記事では、ねこの「害獣」としての側面を見ていきます。害獣としてのねこを知り、ねこと人との関係性を見つめ直しましょう。
飼いねこだけではなく、野良ねこも人の暮らしに密着して生きています。そのため、人に被害を及ぼしてしまうことも少なくありません。
人の暮らしに与えるねこの害とその問題点や対策について解説します。
放し飼いのねこや野良猫は自由に外を歩き、他人の庭や家に入ってしまいます。
庭でうんちやおしっこをして草木を枯らせる、車に傷をつける、ペットの小鳥やハムスターを捕まえてしまうといったトラブルを起こすこともあります。
また、発情期のねこが大声で鳴いてうるさい、野良猫にごはんをあげる人がいて、食べ残しで道が汚れるというのもねこが起こしうる被害の一例です。
ねこの被害が深刻になる理由の一つに、ねこの飼い方に関する法規制が少ないことが上げられます。
犬を飼育する際は居住している市区町村で登録を行い、鑑札と注射済票を犬に装着させることが法律により義務づけられています。
しかし、ねこには犬のような登録制度はありません。そのため、放し飼いをしている飼いねこなのか野良猫なのか区別がつきづらく、飼い主にねこの被害について訴えても、「そのねこは家に来ているだけの野良ねこだから」と言われてしまう場合があります。
さらに、保健所ではねこの捕獲や駆除をしてくれません。
そのため、ねこの被害は被害者の自助努力によって防ぐしかなく、どれだけ対策をしても被害を受け続けるということもありえます。
たとえねこが好きでも、野良猫や放し飼いのねこの被害は見過ごせません。
しかし、先ほど触れたとおり、ねこの被害に対する法規制はないため、自分でねこによる被害を防がなくてはなりません。
ねこの被害を防ぐためには、ねこに「ここに来ると嫌なことがある」と覚えさせることが大切です。
具体的な方法としては以下のようなものがあります。
忌避剤 | ・市販のねこ避け剤
・木酢液、竹酢液 ・ハッカ、かんきつ類 ・ハーブ ・ニンニク、唐辛子、香辛料 ・コーヒーかす、茶殻 |
構造物 | ・トゲトゲのあるマット
・ガムテープ ・卵の殻 ・テグス(張りめぐらせる) ・マット ・枯れ枝 ・地面を覆う植物(地面から10~30cm程度) ・地面をコンクリートで覆う |
物理的に追い払う | ・水をまいてねこのにおいを消す
・水鉄砲で水をかける ・超音波発生装置を使う |
※ねこの反応には個体差があり、効果がない場合もあります。
※臭いや色がつくものもありますので注意して使用してください。
超音波発生装置の貸し出しを行っている地域もあります。お住まいの地方自治体にお尋ねください。
放し飼いのねこや野良猫が及ぼす被害は、人の住む場所だけに限りません。小さな野生動物を捕食して、生態系に大きな影響を与えることもあります。
アメリカ本土ではねこによる野生動物の被害が深刻化しています。最新研究によると、ねこによる野生動物の被害は、鳥が14~37億羽、哺乳類が69~207億匹といわれています。
その約3分の1が、アメリカ本土に8,000万匹いる飼いねこによるものだと考えられているのです。
飼いねこは野良猫と比較すると捕獲する獲物の数は少ないものの、活動エリアが狭いため、その地域に住む鳥や小動物に対して集中的な被害を及ぼすことが問題になっています。
さらに、ねこが狙うのはシマリスやイエミソサザイといった在来種で、ドブネズミのような外来種の害獣ではないことも分かっています。
ねこによる野生動物への被害を軽減する対策として、野良猫のNTR活動※が試みられていますが、成果はそれほど上がっていません。
ねこによる野生動物への脅威は他国でも深刻化しており、西オーストラリア州では、ねこの登録や避妊、マイクロチップ装着が義務化されました。ニュージーランドでもねこの鳥類への影響が非常に大きくなっているため、ねこを飼わないように呼びかける活動を行っている学者もいます。
※TNR活動:野良ねこを捕獲し、避妊・去勢手術を施した後もとの場所へ返す取り組み。
日本においても、希少な野生動物が野良ねこや放し飼いのねこに捕食される被害が増えています。具体的な例としては以下のようなものがあります。
ヤンバルクイナは、沖縄県本当北部の「やんばる」と呼ばれる地域に生息する鳥です。
ほとんど飛ぶことはできないため、茂みの中に隠れるようにして生活しています。
数が減少していることから環境省レッドリストの絶滅危惧IA類に指定されていますが、その原因として考えられているのがねこやマングースによる捕食被害です。
2015年には、沖縄北部でヤンバルクイナがねこもしくは犬に捕食された被害が17件に上っています。死骸の跡が残らないほど食べられているケースを考えると、被害総数はさらに多くなると考えられます。
やんばる地域では、ねこを飼った場合は村へ飼養登録を申請し、マイクロチップの装着や不妊去勢手術を行うよう条例で定めています。
こうした取り組みにより、2005年には720羽にまで減少していたヤンバルクイナの生息数は、2021年時点で1,700羽まで回復していると推定されています。
アマミノクロウサギは、鹿児島県の奄美大島、徳之島にのみ生息するウサギで、ウサギとしては短い耳と黒い毛が特徴です。環境省レッドリストにおいては、絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
アマミノクロウサギが減少している理由としては生息地となる林の減少や交通事故なども挙げられますが、ねこや犬による被害も深刻です。
徳之島で行った調査によると、2021年に見つかったアマミノクロウサギの死骸47体のうち、10体はねこもしくは犬による被害であったそうです。
他にも国指定天然記念物のケナガネズミやトクノシマトゲネズミの被害も問題になっています。
徳之島では、対策としてノネコ※の捕獲を行っていますが、放し飼いのねこが希少な野生動物を捕食するケースも問題視されています。
そのため、徳之島の3町では、飼いねこへのマイクロチップ装着や室内飼育の義務化といった、ねこの適正飼育に関する改正条例を施行しました。
ただ条例を出すだけではなく、違反があれば指導を行うなど、積極的な野生動物保護の取り組みを行っています。
※ノネコ:人の手を離れて山林などに住む、完全に野生化されたねこを指す。飼い主はいないものの人家の近くに住む野良ねことは区別される。
北海道の北西にある天売(てうり)島(羽幌町)はウミネコの繁殖地として知られています。
しかし、1990年から2010年にかけてウミネコの数が急激に減少するという事態が生じました。この原因の一つに、ねこによる被害が挙げられています。
ウミネコは平たんな草地や岩場などで繁殖をするため、ねこに狙われやすいと考えられています。
対策として、羽幌町は「天売島ネコ飼養条例」を制定し、天売島内の飼いねこに対し、登録とマイクロチップの装着を義務づけました。
さらに大規模な取り組みとして、野良ねこの保護と譲渡を実施。2013年からの6年間で、130匹の保護と105匹の譲渡に成功しています。
かわいいねこですが、本能のままに行動し、時には人や野生動物に大きな被害を与えてしまうこともあります。
ねこを「害獣」にしないためには、どのような点に気をつければ良いのでしょうか。
主な対策を以下にご紹介します。
ねこを飼っている方は、完全室内飼いを徹底しましょう。
外に出さなければ、他人の家や庭で悪さをすることもありません。
また、脱走した時の対策として、マイクロチップを入れておきましょう。
完全室内飼いであっても、避妊・去勢手術はきちんとしておきましょう。
発情期を迎えると、ねこはパートナーを必死に探します。いつもはおとなしいねこでも、戸を開けたり、網戸を破ったりして脱走してしまいます。
また、出産によりねこが増えるということは、それだけねこによる被害も増えるということです。
避妊・去勢手術をすることで、愛猫の発情をなくし、脱走や望まない繁殖を防げます。
野良ねこによる被害を減らすため、地域ねこの活動に参加するのも一つの方法です。
「TNR活動」は、野良ねこを捕獲し、避妊・去勢手術を施した後もとの場所へ返す取り組みです。
また、定められたルールのもとに野良ねこにごはんをあげたり、トイレの管理をしたりすることもあります。
決まった場所でごはんを食べたり、トイレをしたりできる環境が整えば、人の家や庭を汚したり、ペットを捕まえてしまったりする危険性を減らすことができるでしょう。
今回はねこの「害獣」としての一面をご紹介しました。
ねこはかわいい家族ではありますが、やはり本能のまま行動する動物です。トイレがしたくなれば庭も掘り返しますし、爪とぎをしたくなったら人の家も引っかいてしまいます。
愛猫を害獣にしないためには、放し飼いをしないこと、望まない繁殖を避けるため避妊・去勢手術をすることが重要です。
また、地域ねこ活動に参加することで、野良ねこの生活を守り、近隣への被害を抑えることができます。
ただかわいがるだけでは、ねこと共生できているとはいえません。
ねこが他人や環境に被害を与えうることを知り、ねこを正しく飼い、ねことの正しい付き合い方を考えていきましょう。