「猫ひっかき病」は名前通りねこに引っかかれることで感染する病気です。発発症すると、発熱や倦怠感などの症状が現れ、まれに重症化する場合もあります。特にねこを飼っている方は、愛猫に引っかかれて猫ひっかき病を発症してしまうケースがありますので、十分に注意しなくてはなりません。
今回の記事では、猫ひっかき病の症状や治療法、予防法をご紹介します。
猫ひっかき病は、「バルトネラ・ヘンセラ」という細菌が引き起こす人獣共通感染症です。
バルトネラ・ヘンセラはねこにとっては常在菌であり、日本のねこも9~15%が保有しているとわれています。
ねこは感染しても無症状ですが、人間に感染することで重篤な症状を引き起こすことがあります。
猫ひっかき病の感染経路や症状、症例を以下にご紹介しましょう。
猫ひっかき病の原因菌である「バルトネラ・ヘンセラ」は、ノミによってねこからねこに感染します。
ねこの血を吸ったノミの体内でバルトネラ・ヘンセラは増殖し、ノミの糞と一緒に排出されてねこの皮膚に付着。毛づくろいなどによって歯や爪にうつります。
人への一般的な感染経路は、病名通り引っかき傷や噛み傷です。
感染したねこに人が引っかかれたり噛まれたりすると、バルトネラ・ヘンセラが傷口から体内に侵入し、ねこ引っかき病を発症します。
また、ねことの食器の共有やキス、原因菌を保有したノミに刺されることで猫ひっかき病を発症する事例も報告されています。
猫ひっかき病の潜伏期間は約1~2週間です。
その後、傷口の腫れや痛み、発熱、頭痛、倦怠感といった初期症状が現れます。
また、リンパ節の腫れが見られるのも猫ひっかき病の特徴です。
背中を引っかかれた場合は首のリンパ節、指先を引っかかれた場合は脇のリンパ節が腫れるなど、傷のすぐそばのリンパ節が腫れるケースが一般的です。
症状が軽い場合は自然に治りますが、まれに視神経炎や急性脳症、多発性肝脾肉芽腫といった重篤な症状を引き起こし、後遺症が残ったり、死亡したりする危険性があります。
猫ひっかき病は、以下のような条件でかかりやすいと言われています。
【1】地域
西日本は東日本より感染報告が多い傾向にあります。温暖な気候のため、原因菌を媒介するノミが増えやすいためだと考えられています。
【2】時期
10~12月にかけて感染が多くなる傾向にあります。
夏の暑い時期にノミが繁殖し、寒くなりねこと人の接触が増える秋から冬にかけて感染しやすくなるためだといわれています。
【3】ねこの特徴
「メスよりオス」「飼いねこより野良猫」「郊外に住むねこより都市部に住むねこ」の方が、保有率が高い傾向にあります。
他のねことの接触が多くなるためと考えられます。
また、3歳以下の若いねこも保有率が高いといわれています。
その他、ねこから感染する人畜共通感染症については以下の記事で詳しくご紹介しています。
ねこを飼っていると、ねこに引っかかれる、噛まれるというのは良くあることです。
「うちのねこは清潔だから大丈夫」と思うかもしれませんが、ねこの歯や爪には、バルトネラ・ヘンセラのような、人の体内に侵入することで感染症を引き起こす細菌が付着している可能性があります。
ねこに引っかかれたり噛まれたりしたら、放置せずまずは応急処置をしましょう。
その後、気になる症状がある場合は病院で治療を受ける必要があります。
まずは流水で傷口をしっかり洗い、菌を洗い流します。せっけんを泡立てて、傷をなでるように優しく洗うと、菌が浮き上がりやすくなります。
その後、きれいなガーゼを当てて止血します。抗生物質成分が入っている軟膏を塗ると症状の悪化を防げます。
出血が止まらない場合はガーゼで傷口をしっかり押さえて病院へ行きましょう。
ねこに引っかかれたり噛みつかれたりした際の対処法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
症状が重い場合は、早急に病院で治療を受けましょう。
病院で猫ひっかき病と分かった場合は、適切な治療をする必要があります。
病院で治療を受ける際の注意点や、猫ひっかき病の治療法は以下の通りです。
【1】病院へ行く目安
応急処置で出血が止まり、気になる症状がない場合はしばらく様子を見ても構いません。
しかし、以下のような症状が出た場合は速やかに病院で治療を受けましょう。
【2】何科を受けるべき?
猫ひっかき病は認知度の高い病気であり、どの科であっても診断は可能です。
どの科を受ければよいか迷ってしまう場合は、出ている症状によって選ぶのも一つの方法です。
症状と受けるべき科をまとめると以下のようになります。
症状例 | 受診に適した科 |
出血が止まらない、意識障害があるなど重篤な症状が出ている | 救急外来 |
患者が子供である | 小児科 |
縫合が必要なほど傷が深い | 外科 |
発熱やリンパ節の腫れが見られる | 内科 |
出血している | 形成外科、皮膚科 |
※あくまで一つの判断基準であり、全てのケースに当てはまるわけではありません。
判断に迷う場合はかかりつけ医に相談してください。
【3】猫ひっかき病の診断法
血液検査での診断が一般的です。採取した血液中の抗原や抗体を調べて病気の有無や程度を診断します。
リンパ節に針を刺して細胞を採取(穿刺)し、PCR検査を行って診断する場合もあります。
【4】猫ひっかき病の治療法
猫ひっかき病と診断された場合、症状が軽い場合は温湿布や鎮痛剤を使って痛みを抑えつつ、自然治癒を待ちます。
リンパ節が腫れて膿を持っている場合は吸引、全身症状が出ている場合は抗生物質を投与するなど、症状に合わせて処置を行うこともあります。
猫ひっかき病はねこと接触することで感染するケースがほとんどです。
そのため、特にねこを飼っている人は猫ひっかき病のリスクが高いといえます。
以下の点に注意して、猫ひっかき病を予防しましょう。
ねこは完全室内飼いをしましょう。外に出ると、他のねことの接触によりノミや細菌に感染してしまう恐れがあります。
交通事故や近隣トラブルといったリスクが回避できる点も、完全室内飼いのメリットです。
猫ひっかき病はねこの爪や歯、唾液から感染します。
自分の手をおもちゃにしてねこと遊んだり、ねことキスをしたりすると感染のリスクが高まるため注意が必要です。
また、ねこを触った後は、石けんで手を洗いましょう。
愛猫のケアも感染防止に有効です。
ねこに引っかかれたときに傷にならないよう、ねこの爪を切っておきましょう。
また、定期的にシャンプーやノミの駆除をすることで原因菌を媒介するノミを減らすことも重要です。
ねこの爪切りの方法や注意点については以下の記事で詳しくご紹介しています。
外でねこに会うと、ねこ好きな方は思わず触りたくなるかもしれません。
しかし、野良猫にむやみに近づくのは危険です。
野良猫は飼いねこより猫ひっかき病をはじめとした感染症にかかっている危険性が高く、触れることで感染してしまうリスクがあるためです。
特に人馴れしていない野良猫は、人が近づくと引っかいたり噛みついたりする場合があります。
保護ねこ活動をしているなど、どうしても野良猫に触れなければならない場合は軍手や長袖の服で皮膚の露出を減らし、けがによる感染を防ぎましょう。
猫ひっかき病は、ねこの持つ細菌「バルトネラ・ヘンセラ」が人に感染することで起こる病気です。
バルトネラ・ヘンセラはねこの常在菌であり、健康なねこであっても保有している可能性があります。
感染するとまれではあるものの、重篤な症状を引き起こし悪い結果になることもあるため、特にねこを飼っている方は注意が必要です。
愛猫と度を過ぎたスキンシップをとることを避け、爪切りやノミ駆除といったケアを行うことで猫ひっかき病の感染を防げます。
ねこは大切な家族ですが、やはり動物であり、人間が持っていない細菌を保有していることを忘れてはいけません。しっかり対策を行い、ねこも人も安全に、楽しく暮らしましょう。