親猫に首を咥えられて持ち運ばれる子猫の姿を、映像などでも見たことがある方も多いのではないでしょうか。
ピクリともしない、その姿はとても可愛らしく見えますよね。
ねこは首の後ろをつまむと、体から力が抜け動かなくなってしまうのです。
しかし、なぜねこは首の後ろをつまむとおとなしくなるのでしょうか。
今回の記事ではねこの首の後ろをつまむと動かなくなる理由やその活用法、つまむときのコツについてお話します。
親猫が子猫を運ぶ時、首の後ろをくわえて持ち上げます。
その時子猫は大人しくなり、体を丸めて鳴くのもやめ、ピクリともしません。
この子猫の反応は、大人になってからも残ります。
そのためねこは、首の後ろをつまむと動かなくなるのです。
首をつままれると苦しそうな感じがしますが、ねこは首の皮がたるんでいるため、正しくつまめば苦痛は感じません。
それどころか、リラックスモードに入っている可能性すらあるのです。
2007年に行われた研究によると、ねこの首の後ろにクリップを挟んだところ、多くのねこがおとなしくなったということです。
そこには恐怖反応といわれる瞳孔の拡張や心拍数、呼吸数の増加は見られず、死んだふりでもないことが確認されました。
以上のことから、ねこの首の後ろをつまむと、苦痛を与えることなく動きを抑制できる可能性が高いと考えられています。
この現象は「Pinch-Induced Behavioral Inhibition(つまみ誘発性行動抑制)」と呼ばれ、略してPIBIといいます。
参考:Pinch-induced behavioral inhibition (‘clipnosis’) in domestic cats
首の後ろをつまむと動かなくなる「PIBI」という手法は、さまざまなシチュエーションに利用できます。
主な活用法をご紹介しましょう。
PIBIを積極的に活用している動物病院もあります。
処置の際に獣医師やアシスタントが首をつまみ、持続的に弱い圧力をかけてねこをおとなしくさせます。
愛猫の首をつかまれるとびっくりしてしまいますが、ねこの動きを少なくし、処置を迅速、安全に進める方法なのです。
ただし、ねこが明らかに苦痛を感じている場合には、やめてもらうようにしましょう。
引っ越しや避難などでねこを運ぶ時、キャリーケースに入るのを嫌がってなかなか入れられないことがあります。
そのような時は首のうしろをつまむと、おとなしくキャリーに入ってくれるかもしれません。
爪切りや耳掃除を嫌がるねこは、首の後ろを軽くつまむとおとなしくなりケアがしやすくなります。
専用のクリップを使えば両手があくため便利です。
首の後ろをつままれるとおとなしくなることを利用してマッサージを行い、ねこをリラックスさせ、コミュニケーションを取ることもできます。
首の後ろを優しくなでたりもんだりするだけでも効果がありますので、ねこの反応を見ながら試してみても良いでしょう。
ねこの首の皮は厚いとはいえ、首は脊髄や太い血管などがあり非常にデリケートな部分です。
つまみ方を間違えるとケガや苦痛を引き起こしてしまいますので、慎重に行うようにしましょう。
ねこの首をつまむ時のコツをいくつかご紹介します。
触られるのに慣れていない猫は、急に首の後ろをつままれると驚いてリラックスどころではなくなります。
まずは普段からねこの首や肩に触れ、優しくマッサージをするなどして信頼関係を築き、触られることに慣らしておきましょう。
ねこの首の後ろをつまむときは、マッサージの延長のような感じで、やさしく握るようにしましょう。
掴むではなく、あくまでもつまむです。
親指を使うと力が入り過ぎてしまうので、人差し指~小指でつまむと良いでしょう。
正しくねこの首の後ろをつまんだら、ねこの反応を見ます。
ねこの手足から力が抜け、体を預けるような体勢になります。
体に力が入っていたり、苦痛で鳴いたりしている場合はすぐにやめましょう。
終わった後はなでたりおやつをあげたりして、首をつまむことは怖いことではなく、楽しいことがあると覚えさせると次回の首つまみもスムーズになります。
くびを優しくつまむのは構いませんが、絶対にそのまま持ち上げてはいけません。
親猫は子猫の首をかんで持ち上げて運びますが、これは親猫の力加減が絶妙であること、子猫の体重が軽いことからできる技です。
3kgを超えた大人のねこの首をつまんで持ち上げると、首の皮膚がつっぱり、首の前側にある太い血管を締め付けてしまいます。
言うなれば首にロープをかけ、後ろに引っ張っているようなもので、明らかに虐待行為です。絶
対にしてはいけません。
ほかにも、首をつまんで揺さぶる、長い時間(10分以上)つまみ続けるといった行為もねこに苦痛を与える原因になりえますので注意が必要です。
首をつまむのが難しい、もしくはケアのため両手をあけたいという場合は、専用のクリップを使うのも一つの手段です。
使用方法を読み、使い方や使う時間は必ず守るようにしましょう。
ねこが他のねこの首の後ろを噛むこともあります。
一瞬びっくりしますが、実は特に問題のない行動であることもあります。
ねこが他のねこの首をかむ理由と、止めた方が良いかどうか見極める方法についてご紹介します。
母猫が子猫の首を噛むときは、子猫を運ぼうとしている場合がほとんどです。
先ほどご紹介した通り、ねこは首のうしろをつまむと動かなくなるため、騒いだり暴れたりすることなくスムーズに移動ができます。
また、子猫が悪さをした時に、しつけで噛むこともあるようです。
どちらにせよ、母ねこはきちんと加減をしているので心配する必要はありません。
交尾をする際、オスねこはメスねこにまたがり、首の後ろをかみます。
この交尾時にメスねこの首を噛むのは「ネックグリップ」と言われる行為です。
母ねこが子ねこの首をかむのと同様に、大人しくさせるために行っていると考えられます。
自然な行為なので止める必要はありません。
なお、メスねこは交尾時に痛そうに鳴くことがあります。
これは交尾自体に痛みを伴うためで、異常ではありません。
多頭飼いをしているとき、大人のねこ、特にオス猫が他のねこの首をかむことがあります。
これは「自分の方が強い」とマウンティングをしている可能性があります。
様子を見て、あまりにかみ方が強かったり、かまれたねこが反撃して激しいけんかになったりした場合は止めた方が良いかもしれません。
子猫同士で首をかむのは、単純にじゃれているケースがほとんどです。
時には痛みのあまり声を上げることがありますが、子猫はそうしてかみ合いをする中で、加減をすることを学んでいきます。
あまりに程度がひどくない場合はそっと見守るようにしましょう。
ねこが首の後ろをつまむと動かなくなるのは、子猫時代を生き抜くねこの本能から来ています。
そのねこの本能は、病院の診察や移動、体のケアなどにも利用できます。
しかし、やり方を間違えるとねこに苦痛を与えることになりますので、ねこの首をつまむ時は、ねこの反応を見ながら慎重に行うようにしましょう。