
「ねこが経済を救う」と聞いて、皆さんはどう感じますか?
のんびり寝て、気まぐれに甘えて過ごすねこが、お金を生み出しているなんて、ちょっとふしぎな気がしますよね。
でも実は、ねこはその愛らしさと存在感で、日本経済に大きな影響を与えているのです。
今回は、そんなねこの経済効果「ネコノミクス」についてお話しします。

「ネコノミクス」とは、ねこが生み出す経済効果を表す造語です。
2012年に安倍晋三首相の経済政策として登場した「アベノミクス(Abe+economics)」から派生した言葉で、2015年頃から使われるようになりました。
ねこの生み出す経済効果には、ねこの購入費や飼育費だけでなく、ねこモチーフのグッズや写真集、ねこカフェ、ねこアプリなど、さまざまなものがあります。
具体的な例を挙げると、次のようになります。
| ねこの購入費 | 購入費(ブリーダー、ペットショップ)
保護ねこの譲渡費用 |
| ねこの飼育費
(物品) |
キャットフード、おやつ、サプリメント、食器、水飲み器、ねこ砂、ねこトイレ、消臭材、シャンプー、ブラシ、おもちゃ、キャットタワー、自動給餌器、ペットカメラ、ねこの服、ハーネス |
| ねこの飼育費
(サービス) |
医療費、ワクチン接種費用、トリミング、ペット保険、ペットホテル、ペットシッター、ペット葬儀、ペット霊園 |
| ねこ関連グッズ | ねこモチーフの雑貨、文房具、食器、服、家具、家電、パン、お菓子 |
| ねこ関連の著作物 | ねこの本、漫画、写真集、映画、ドキュメンタリー、ゲーム、アプリ |
| ねこ関連のサービス | ねこカフェ、ねこ仕様の住宅・リノベーション、ねこ付きマンション、セラピーキャット |
| 広告・コンテンツ・その他 | ねこを起用した広告・ねこ動画の収益・ねこのイベント、地域振興、観光資源 |
上記のようなグッズやサービスには、小売業や製造業、マーケティング業など、多くの業種や職種が関わっています。
つまり、ねこによる経済効果はさまざまな分野に広がり、多くの人の収益や雇用を生み出しているのです。
私たちが意識しないうちに、ねこは経済の一部として確かな価値をもたらしている、「影の経済プレイヤー」と言えるかもしれません。
ネコノミクスが注目を集める背景には、ねこ人気の高まりと、飼育数の増加があります。
一般社団法人ペットフード協会の発表によると、2024年時点でのねこの飼育数は915万5,000匹。犬の679万6,000匹を大きく上回っています。
ねこの飼育数が増えている背景には、日本人のライフスタイルの変化があります。
共働き世帯の増加や高齢化、都市部への人口集中といった社会的な変化により、散歩の手間がかからないねこを選ぶ家庭が増えているのです。
さらに、コロナ禍の巣ごもり需要によって「家で癒しを得たい」と考える人が増えたことも、ねこの人気を後押ししました。
ねこは犬に比べて運動量が少なく、限られたスペースでも飼いやすいという特徴があります。
また、散歩やしつけが不要なため、時間や体力に余裕がない人でも無理なく飼育できます。
こうしたねこの特徴は、まさに現代の生活スタイルにぴったりフィットしているといえるでしょう。

関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によると、2025年の「ネコノミクス」は約2兆9,086万円となりました。この試算にはねこの飼育費用やねこグッズ、ペットフード関連企業の収益、それに携わる従業員の所得増加などが含まれています。
この額は、2025年大阪・関西万博による経済効果の試算額とほぼ同じ規模です。
一大国際イベントに匹敵するほどの経済インパクトを、ねこが日常の中で生み出していると考えると、その影響力の大きさがよくわかります。

ねこは犬のように、人の指示を聞いて働くわけではありません。
それでも、ただそばにいるだけで、そのかわいらしい姿やしぐさで人を癒し、結果として経済効果を生み出しています。
ここからは、ねこが活躍することで利益を生み出している地域やお店について見ていきましょう。
田代島(たしろじま)は、宮城県の石巻湾に浮かぶ面積約3平方キロメートルの小さな島です。
人口はわずか48人(令和6年3月末時点)ですが、島にはそれを上回る100匹以上のねこが暮らしています。
大漁を祈ってねこの神様をまつる「猫神社」があり、さらに犬の上陸を禁じていることから、「ねこの島」「ねこの聖地」と呼ばれるようになりました。
ねこ型のロッジやねこグッズを扱うショップなど、ねこにまつわる観光スポットも多く、週末には島へ向かうフェリーが満席になることもあります。
港や路地でのんびり寝転ぶねこたちが人々を引き寄せ、過疎化が進む小さな島に確かな経済効果をもたらしているのです。
ネコノミクスの火付け役といえば、和歌山電鐵の「たま駅長」でしょう。
たまは、貴志駅の売店で飼われていたメスの三毛ねこです。
2007年3月、貴志川線の経営が南海電鉄から和歌山電鐵に移管される際、たまの住む場所がなくなってしまいました。
そこで、和歌山電鐵の小嶋光信社長がたまを「駅長」に任命。駅長帽をかぶってお客さんを見送る姿が話題となり、たまに会うために訪れる観光客が急増しました。
たまの活躍は、赤字路線だった貴志川線を救い、和歌山県の観光価値を大きく高めました。
その経済効果は約11億円(2007年・関西大学 宮本勝浩名誉教授の試算)にのぼるといわれています。
初代たま駅長は2015年に16歳で亡くなりましたが、現在は「よんたま」「ごたま」など、後継のねこたちがその意志を受け継ぎ、駅を訪れる人々を癒し続けています。
ジオラマ食堂は、大阪・天王寺にある鉄道模型がテーマのカフェです。
2005年にオープンし、児童施設も併設するなど、地域に親しまれてきました。
しかし、コロナ禍で売り上げが落ち込み、経営は一時ピンチに陥ります。
そんな中、保護ねこを引き取ったことが転機となりました。
小さな汽車にじゃれついたり、線路の上で寝転がったりするねこの姿が「怪獣みたい」とSNSで話題に。
ねこを目当てに訪れるお客さんが急増し、やがて完全予約制にせざるを得ないほどの人気店となりました。
現在は、保護ねこの譲渡会を毎日開催し、新しい家族との出会いをサポートしています。
ねこと人が「ジオラマ」を通してつながり、お互いに支え合う、そんなあたたかな絆が、この小さな食堂を今も元気に走らせているのです。

「ネコノミクス」には、さまざまなジャンルがあります。
そして今も、新しい試みが日々生まれ続けています。
ねこは経済効果を生み出すだけでなく、日本経済にイノベーションの風を吹き込む存在でもあります。
ここでは、ネコノミクスが生み出した新しい事業や挑戦をいくつかご紹介します。
現在、ねこに関係する新しいIT技術(インターネット・コンピュータ技術)が次々と生まれています。
そのひとつが、ねこの行動や変化を記録・分析する「Catlog(キャトログ)」です。
これは、首輪タイプのデバイスをねこの首につけることで、食事や睡眠などの日常行動を自動で記録できるものです。
いつもより動きが少ない、嘔吐しているといった気になる行動が見られると通知が届き、病気の早期発見や早期治療につなげることができます。
そのほかにも、ねこのおしっこの回数や量をデータとして記録できるIoTトイレ「Toletta Cats(トレッタキャッツ)」、ねこの顔写真から痛みの有無を判定できるAIシステム「CatsMe(キャッツミー)」など、さまざまな製品が開発されています。
ねこは、建築や不動産といった住宅関連の事業にも大きな影響を与えています。
「ねこと暮らせる家」として、脱走防止の扉やキャットウォーク、トイレ置き場などを備えた住宅を設計するハウスメーカーが増えています。
また、ねこ付きアパートやねこと暮らせるシェアハウスも人気です。
これは入居時にねこを預かり、一緒に生活しながら世話をするという仕組みで、相性がよければ正式に引き取ることもできます。
こうした取り組みは、「ねこと暮らしたい」という人の願いを叶えるだけでなく、ねこに安全で快適な暮らしを提供することにもつながっています。
住まいの形が変わることで、人とねこの関係もより豊かに進化しているのです。
ねこは、伝統産業の盛り上げ役としても活躍しています。
ねこモチーフの陶芸やガラス雑貨などは、そのぬくもりとかわいらしさで多くの人に愛されています。
また、岩手県の伝統工芸「岩谷堂箪笥」では、職人の技を生かしたねこの爪とぎを開発。
新潟県関川村では、わらで編む伝統の「ねこちぐら」をふるさと納税の返礼品として人気を集めています。
こうした新しい挑戦は、伝統工芸の魅力を現代に伝えるだけでなく、産業の継続や後継者の育成にもつながっています。
ねこの経済効果「ネコノミクス」について解説しました。
ねこはそのかわいらしさや気まぐれな魅力で人の心をつかみ、社会に新たなお金の流れを生み出しています。
さらに、ねこの存在は新しい技術や製品、サービスを生み出す原動力にもなっています。
ねこは私たちに癒しや喜びをもたらすだけでなく、日本経済を支える「救世主」と言えるのかもしれません。