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ねことの生活
ねこの家畜化ー猫が「ねずみ捕り」から「家族」になるまでー

ねこの家畜化はいつ?~猫が「ねずみ捕り」から「家族」になるまで~

私たちのそばで丸くなって眠るねこ。もうずっと前から、ねこは人間の生活に寄り添い続けています。

ですが、そんなねこも最初は野生動物だったはず。なぜねこは人間と一緒に暮らすようになったのでしょうか。

また、ねこと人間の関係はどのように変化してきたのでしょうか。

今回の記事では、「ねこの家畜化」をテーマにお話を進めていきます。

目次

1.野生動物からねずみ捕りへ
∟1-1.世界最古のねこのお墓
∟1-2.中国で見つかったねこの家畜化のきざし
∟1-3.ねこが人と暮らすようになった理由
2.ねずみ捕りからペットへ
∟2-1.世界に広がるねこ
∟2-2.日本人とねことの関係
∟2-3.飼いねこ革命
3.ペットから家族へ
∟3-1.ねこは家族、それともご主人様?
∟3-2.ねこのコミュニケーション能力は進化している
∟3-3.人との関わりの中でねこに起こりうる問題
まとめ

1.野生動物からねずみ捕りへ

※リビアヤマネコ

現在の飼いねこの祖先は、約13万年まえにアフリカ北部や中近東から西アジアに生息していた「リビアヤマネコ」であるといわれています。

リビアヤマネコは砂漠やサバンナなどさまざまな環境に生息しており、主に小動物を捕食して暮らしていた野生動物でした。

リビアヤマネコがいつから、また、どうして一緒に暮らすようになったのか、ねこの家畜化の始まりをご紹介します。


1-1.世界最古のねこのお墓

世界最古の飼いねこが見つかったのは、地中海東部にあるキプロス島です。

2004年、この島にある9,500万年前の遺跡でねこの骨が発見されました。

人のそばに埋められていたこと、近くに人工の装飾品が散りばめられていたことから、このねこは人と一緒に埋葬された、すなわち人に飼われていたと考えられています。

キプロス島には本来リビアヤマネコは住んでいなかったことから、このねこは人によって船に乗せられ、大陸から連れてこられたと予想されています。


1-2.中国で見つかったねこの家畜化のきざし

日本に近い中国の遺跡でも、ねこの骨が発見されています。

中国の陝西省(せんせいしょう)にある約5300年前のものと思われる遺跡で、ネコ科と思われる骨が発掘されました。

後々の研究でその骨は「ベンガルヤマネコ」のものであることが分かったほか、穀物を摂取していたこと、高齢になるまで生きていたことも判明しました。

このことから、このベンガルヤマネコは人の穀物を盗み食いするげっ歯類(ねずみのような生き物)を退治する存在として、大切にされていたのではないかとの仮説が立てられています。

単に共生していただけで「飼いねこ」とはいえないかもしれませんが、人とねこが共同生活をしていた可能性を示す重要な手がかりとなりました。


1-3.ねこが人と暮らすようになった理由

ねこが人と一緒に暮らすようになったのは、穀物をねずみのようなげっ歯類から守るためであったと考えられています。

穀物の栽培が始まり、収穫した穀物を貯蔵するようになると、人々は穀物を食い荒らすねずみの存在に悩まされるようになりました。

そこでねずみを捕るのが得意なねこを、そばに置くようになったといわれています。

ねこからしても、獲物であるねずみや人がくれる残飯など、食べ物が豊富にある人の生活エリアは快適な場所であったに違いありません。

雨風がしのげ、比較的安全な場所にいられるという点も魅力的だったのでしょう。

しかし、人と暮らすようになったからといって、ねこは「家畜化」をしたとはいえません。

気まぐれで単独行動を好むねこは、犬や馬のように飼いならされることはありません。野に放てば、すぐに野生に帰ります。

ねこは家畜化されたのではなく、「半家畜化された」、もしくは「単に一緒に住んでいるだけ」といった方がふさわしいでしょう。

2.ねずみ捕りからペットへ

人にとって、ねこは始め大切な穀物を守るボディガードのような存在でした。

しかし、人間社会の発展に伴い、ねこは世界に広がると同時に、心を慰めてくれるペットとして大切にされるようになりました。


2-1.世界に広がるねこ

人間社会が発展し、交易や探検などによって人の行き来が多くなる中で、ねこは人と共に大陸や海を渡り世界中に広がりました。

特に交易の船旅にとって、ねこはなくてはならない存在でした。

交易物に害を与えるだけではなく、感染症のもとにもなるねずみを退治してくれるねこは、船乗りたちに「仲間」として認められていました。

そして単なるねずみ捕りではなく、船の守り神として大事にされるようになったのです。


2-2.日本人とねことの関係

世界に広がるねこの流れが、日本に到達したのは飛鳥時代から奈良時代のこと。

シルクロードを通じてアジア圏内に広がったねこが、中国を経由して日本にもたらされたといわれています。

鎌倉時代になると貴重な書物をねずみから守るため、南宋(1127年~1279年に存在した中国の王朝)からねこを輸入していたようです。

しかし、室町時代になるとねこはペットとしてかわいがられるようになりました。大切にするあまり、犬のようにつながれていたこともあったようです。


2-3.飼いねこ革命

日本と同様に、世界においてもねこはねずみ捕りからペットへと変わっていきました。その傾向が顕著になったのが19世紀です。

18世紀にイギリスで始まった産業革命を皮切りに、世界各国で都市化・工業化が進みました。

人の生活が豊かになるにつれてねずみも増えてきたことから、ねこの存在はより重要なものになりました。

さらに、都市化の進展によりねこと人間の距離が近くなり、人はねこの美しさや愛らしさをより深く理解するようになりました。

産業革命は、人の生活におけるねこのあり方をも変え、「飼いねこ革命」を起こしたというわけです。

ねこの魅力をより引き立てるために品種改良がおこなわれるようになったのもこの頃です。

ねこの品種改良の歴史は200年と浅いですが、現在では300種(未公認のものを含む)を超える品種がいるといわれています。


3.ペットから家族へ

ねずみ捕りからペットになったねこ。しかし現在では、ねこはペットという枠を超え、家族の一員として大切にされています。

ですが、人とねこの距離が近くなったからこそ起こりうる問題も数多く潜んでいます。

最後に、現在のねこと人との関係について解説します。


3-1.ねこは家族、それともご主人様?

昭和時代のねこは、ごはんにみそ汁(+だしを取ったにぼしやかつおぶし)をかけた「ねこまんま」を食べ、家の中と外を出入りしていました。

しかし現在では、完全室内飼いが当たり前。しっかり栄養が計算されたキャットフードや、愛情たっぷりの手作りごはんを食べて過ごしています。

室内飼いだからこそ、お家の中にはキャットタワーやキャットウォーク、たくさんのおもちゃがあふれています。もちろん、それらを使うかどうかはねこの気分しだいです。

このように現在のねこはとても大切にされています。

愛猫を「ねこ様」と呼び、王様のように大事にする飼い主も少なくありません。

今やねこは家族どころか「ご主人さま」といった方がいいかもしれません。

気まぐれでかわいいご主人さまに振り回されるのも、ねこ飼いならではの幸せですね。


3-2.ねこのコミュニケーション能力は進化している

ねこは気まぐれで誇り高く、人にはへつらわない…と考えられがちです。

しかし、ねこも人と暮らしてきた長い歴史の中で、人とのコミュニケーション能力を培っています。

その代表的なものが「鳴き声」です。

単独行動をするねこは、本来ほぼ鳴きません。ねこが鳴くのは親子がコミュニケーションを取る時、もしくはケンカや繁殖に限られています。

しかし、飼いねこはとてもおしゃべりで、飼い主に対して良く鳴いて話しかけます。

これは人と暮らす中で、コミュニケーションの方法として鳴き声が一番役に立つためです。

そのほかにも、ねこは人と暮らす中で、以下のような能力を身に着けたといわれています。

  • ・人の指さした方を注意して見る
  • ・人の表情を読み取る
  • ・人の話をよく聞き、単語の意味を理解する

ねこはワガママでマイペース、と思いきや、意外と人のことを良く見て、人と交流するために努力してくれているのですね。


3-3.人との関わりの中でねこに起こりうる問題

ねこは人にとってペットではなく、大切な家族になっています。

しかしその反面、人との関わりの中で悲しい目に合うねこも増えています。

ねこと人との関係から生まれる問題についても目を向けてみましょう。

【1】殺処分

環境省の発表によると、令和4年度のねこの殺処分数は9,472匹、そのうち5,878匹が離乳してない子ねこです。

ねこを飼ったものの避妊手術をせず、生まれた子ねこを保健所に連れて行く、もしくは捨てる人が多いことが理由であると考えられます。

ねこを飼うのであれば、ねこが悲しむことのないよう責任を持って飼わなくてはなりません。

出典:環境省 統計資料 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況

・ねこの殺処分については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

関連記事:ねこの殺処分が犬より多い理由は?ねこの命を守るためにできること

【2】悪質なブリーダーの問題

ねこの人気が高まるにつれ、さまざまな品種のねこがペットショップに並ぶようになりました。

しかし、血統書付きのねこを繁殖、販売するブリーダーの中には悪質な業者もあるため注意が必要です。

狭いケージに閉じ込めて、何度も交配を繰り返すなど、劣悪な環境で飼育されている親ねこもおり、ねこの幸せが完全に無視されています。

そのような環境で生まれた子ねこは、遺伝病を抱えていることも少なくありません。

ねこをペットショップやブリーダーからお迎えする場合は、適切な飼育環境で育てられていたかどうかを確かめることが重要です。

【3】多頭飼育崩壊

多頭飼育崩壊とは、不適切な飼い方により動物が増え過ぎて、飼い主が世話をできなくなった状態を指します。

特にねこは繁殖力が強いため多頭飼育崩壊になりやすく、不衛生な環境による悪臭や害虫の発生、ねこの病気や栄養不良などの健康問題が起こりえます。

多頭飼育崩壊は飼い主の責任と考えられがちですが、お金がない、認知症になっているなど、飼い主だけでは解決できない問題が潜んでいることもあります。

もはや社会全体で考えなければならない課題であるといえるでしょう。

・多頭飼育崩壊の問題については、以下の記事で詳しくご紹介しています。

関連記事:多頭飼育届出制度を理解しよう

【4】「えさやりさん」の問題

野良ねこにごはんをあげる「えさやりさん」も社会問題となっています。

ねこの食べ残しを処分せず道路が汚れる、集まってきたねこたちが庭を荒らしたりおしっこをしたりするといったことがあり、住民同士のトラブルに発展する場合があるためです。

また、ごはんをもらって栄養状態の良くなった野良ねこは、子ねこをたくさん産み、さらに不幸なねこを増やしてしまいます。

野良ねこのお世話をするのであれば、以下の点に気をつけなければなりません。

  • ・避妊・去勢手術をする
  • ・決まった場所・時間でねこにごはんをあげる
  • ・ごはんをあげた後は掃除をする
  • ・トイレの管理をする
  • ・野良ねこのお世話をすることについて、地域の理解を得る

地域によってはボランティア団体がお世話をしていることもありますので、「野良ねこを助けたい」と考えている方は相談してみると良いでしょう。

・地域猫については、以下の記事で詳しくご紹介しています。

関連記事:地域猫って何?さくら猫とは?地域猫との上手な関わり方について紹介

まとめ

ねこの家畜化の歴史について解説しました。

長い歴史の中で、ねこはねずみ捕りからペット、そして家族へと、人との関係がより深く、温かいものになっていることが分かります。

しかし、その反面、殺処分や多頭飼育崩壊など、悲しいねこを増やす問題が起きているのも事実です。

ねこと人との関わりを振り返り、現在抱えている課題に向き合うことで、ねこと共に歩む未来が見えてくるかもしれません。


   
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