ねこの育児期間は長くても6ヶ月です。
その間に母ねこは、子ねこにお乳をあげ、危険から守り、生きるためのすべを教えていきます。母ねこは子ねこをどのように育て、何を教えるのでしょうか。
今回の記事では、ねこの育児について解説します。
子ねこが生まれた瞬間から、母ねこの育児が始まります。
生まれたばかりの赤ちゃんは体重100g程度という小ささです。目も開いておらず、前足をバタバタさせるだけで歩くことはできません。まずは赤ちゃんねこが生きのびられるよう、母ねこは一生懸命に育児をします。母ねこが赤ちゃんねこにするお世話としては、以下のようなものがあります。
赤ちゃんねこが生まれると、母ねこは赤ちゃんねこを舐めて羊膜を取り、体をきれいにします。へその緒は咬み切り、胎盤や羊膜と一緒に食べてしまいます。
その後、母ねこは赤ちゃんねこにお乳をあげます。最初にあげるお乳は「初乳」といい、抗体がたっぷり含まれています。子ねこは初乳を飲んで母ねこから抗体をもらい、病気から身を守るのです。初乳の効果は60~90日程度あるといわれています。
母ねこはほとんどの時間を赤ちゃんねこと過ごし、お乳をあげて温め、体を舐めてきれいにします。この頃の母ねこは非常に神経質になっており、飼い主でも近づくと怒る場合があります。なるべく静かにして、母ねこにストレスを与えないようにしましょう。
赤ちゃんねこは自分でうんちやおしっこを出せません。
母ねこがお尻や陰部を舐めて刺激することで、初めて排泄できます。うんちやおしっこは母ねこが舐めとります。
赤ちゃんねこは生後21日頃からごはんを食べ始め、自分で排泄ができるようになります。足腰もしっかりして、よちよちと歩けるようになってきます。赤ちゃん時代を卒業し、元気な子ねこに成長する時期です。
生後1ヶ月半頃になると、いよいよ本格的な教育が始まります。母ねこは食べ物を確保する方法や、危険から身を守る手段、周りのねこや人とのコミュニケーション術を徹底的に子ねこに教えます。母ねこの厳しくも優しい教育法をご紹介しましょう。
ねこは肉食動物であり、自分で獲物を捕まえて食べなくてはなりません。まず母ねこは獲物を持ち帰り、子ねこの前で咬み殺します。ねこはその様子を見て、獲物は食べるものであり、咬むことで殺せることを学びます。
次に母ねこは子ねこに狩りを見せ、獲物の見つけ方や忍び寄り方を実地で教えます。
少しずつ段階を経て、子ねこは獲物を見つけ、捕まえて殺し、食べる術を習得していくのです。
なお、食べ物の好みや獲物の選び方はこの教育期間で決まります。
例えば、冬の初めに生まれ、子ねこ時代にヤモリを食べたことのないねこは、成長してからもヤモリを獲物だと認識できないことがあるようです。
ねこは肉食動物ですが、同時に大きな動物に捕食される弱い存在でもあります。敵に襲われないためには、危険な場所や敵について学ばなくてはなりません。
子ねこが危険な場所に行くと、母ねこは子ねこの首をくわえて連れ帰ります。母ねこの行動を見て、子ねこは安全な場所、危険な場所を知ります。
また、犬やヘビ、カラスのような天敵が近づいてきたら、母ねこは子ねこを逃がし、時には敵を追い払うために戦います。子ねこは母ねこを通して、敵から身を守る方法を学ぶのです。
他のねこと上手にコミュニケーションを取る方法も子ねこ時代に学ぶことの一つです。
子ねこが母ねこにしつこくじゃれつくと、母ねこは子ねこを抑えて咬みます。子ねこは咬むと咬み返されること、咬まれると痛いことを実感し、手加減をするようになるのです。
また、子ねこが母ねこをじっと見ると母ねこは怒ります。ねこにとって目を合わせることは敵意の表れになるためです。
飼いねこや地域ねこなど、周囲に人がいる環境においては、人との付き合い方も覚えていかなくてはなりません。
家で飼われているねこの場合、子ねこは母ねこの真似をして飼い主に甘えるようになります。逆に野良猫の場合は、母ねこが人を警戒する様子を見て、子ねこも人を怖がるようになります。子ねこの時代に人と接していないねこは、その後人と暮らすようになってもなかなか人に慣れません。
生後3ヶ月を過ぎたあたりから、母ねこは子ねこに構わなくなります。子ねこが母ねこに甘えても、うるさそうに追い払ってしまうこともあります。教育はすでに終わっており、母ねこは次の出産のために体力を回復する時期に差しかかっているのです。
子ねこは段々と親離れをしていきますが、その過程はオスとメスで大きな違いがあります。
オスの子ねこは一般的に、母ねこと離れ、遠くに出ていきます。生まれた場所に留まっていると、母ねこと交尾して近親交配になってしまう恐れがあるためです。
しかし、ねこの密度が高く自分のテリトリーを作るのが難しい場合は、しばらく母ねこのそばにいて、2~3歳になって力が強くなってきた頃に故郷を離れるケースもあるようです。
メスの子ねこは母ねこのそばに残り、メス同士で小さな群れを作ることがあります。これを「母系社会」といいます。血のつながったメスねこ同士が一緒にいることで、以下のようなメリットがあると考えられています。
ただし、このような母系社会が形成されるのは、食べ物がたくさんある豊かな場所に限られます。食べ物が少ない場所では、母ねこが娘ねこを追い払ってしまうことが多いようです。
最後に、ねこの子育てに関する豆知識をご紹介します。
母ねこが自分の子と一緒に、犬やネズミ、リス、時には鳥の赤ちゃんまで育てる映像を見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。授乳期のメスねこは特に母性愛が強く、自分の子ではない赤ちゃんも受け入れることがあります。
その理由ははっきりしていませんが、以下のようなものが挙げられます。
【1】共同保育ができる動物であるため
先ほどご紹介した通り、メスねこはグループを作り、協力して育児をすることがあります。共同保育においては、お互いの子ねこにお乳を与えることも少なくありません。母ねこは「赤ちゃん」に対して寛容で、自分の産んだ赤ちゃんでなくても世話をします。そのため、他の動物の赤ちゃんも受け入れやすいのではないかと考えられています。
【2】多胎動物であるため
ねこは1回の出産で3~8匹の子ねこを生みます。数が多いため、1匹1匹を見分けることはないといわれています。そのため、育児中に赤ちゃんを見つけたら、自分の子として世話をするというわけです。
母性本能の強いねこですが、子ねこの世話をやめてしまうこともあります。原因としては、以下のようなものがあげられます。
母ねこに見離された赤ちゃんねこが生きのびることは不可能です。すぐに保護して、人工保育で育てなくてはなりません。
基本的に育児をするのは母ねこだけですが、オスねこが子育てに関わり、体を舐めたり、獲物を持ち帰ったり、敵を追い払ったりすることもあります。
また、血がつながっていなくても、子ねこの世話をするオスねこもいます。ねこの保護施設では、新入りの子ねこを世話する「保育士さん」のような立場のオスねこも多いようです。先輩ねこが自分にしてくれたことを、子ねこにしてあげているのかもしれません。
ねこの育児について解説しました。
ふにゃふにゃした小さな赤ちゃんねこもあっという間に成長して、半年以内には親離れをします。
母ねこは短い期間の中で、生きるための子ねこに伝えます。時々、子ねこは母ねこに怒られたり咬まれたりすることもありますが、それは生きのびてほしいという母ねこのひたむきな想いからくる厳しさです。
子ねこは母ねこの愛情たっぷりの教育を受け、立派なねこになって独り立ちします。そしてパートナーを見つけ、母ねこからもらった命と教育を、子供たちに受け継いでいくのです。