知っているようで知らない、ねこの生殖器。ねこの生殖器にはどのようなものがあるのでしょうか。また、ねこはどのように発情し、どのように繁殖をするのでしょうか。生殖器にはどのような病気が起こりうるのでしょうか。普段はあまり目にすることのない、ねこの生殖器について見ていきましょう。
生殖器は大きく分けると「性腺」と「副生殖器」の2種類があります。
性腺 | 生殖細胞を作り出す器官 | メス | 卵巣 |
オス | 精巣 | ||
副生殖器 | 性腺以外の生殖に関する器官 | メス | 卵管、子宮、膣、乳腺 |
オス | 陰茎、前立腺 |
ねこの生殖器は人間との共通点も多いですが、異なる点もいくつかあります。ねこの生殖器にどのようなものがあるか、またどのような特徴があるのかご紹介します。
メスねこの生殖器と、その特徴は以下の通りです。
【1】卵巣
卵子を生産する器官で、子宮角の先に1つずつあり、大人のねこで小豆粒大(1.5センチ)程度です。卵巣内には原始卵という卵細胞がたくさんあり、その中のいくつかが卵胞に成長します。卵胞が充分に成長し、妊娠可能な状態になると発情期を迎えます。
【2】子宮
ねこの子宮は人間とは異なり、小さな子宮体部から左右に子宮角が伸びた「Y」の字のような形をしています。Yの字の形の両端に卵巣があるイメージです。
このような形をした子宮を「両分子宮」といいます※。
人間と同じく、妊娠した際に胎児を育てる器官です。
※ねこは「両分子宮」と「双角子宮」の中間であるとする場合もあります。
【3】膣
ねこの膣は子宮頚部につながっており、膣の手前には尿道の出口があります。
交尾の際にはオスの陰茎をメスの膣に挿入します。その刺激によって排卵が起こり、妊娠するため、ねこの妊娠率はほぼ100%です。
【4】乳腺
ねこの乳腺は4対8個が標準です。性ホルモンや甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンの影響を受けて発達し、出産後にはお乳が出ます。
なお、オスねこにも乳腺がありますが、メスのように発達することはまずありません。
オスねこの生殖器とその特徴をご紹介します。
【1】精巣
精巣は精子が作られる器官です。オスねこの肛門の下にある膨らみ「陰嚢」の中に入っています。精子は高温に弱いため体内温度では十分に活動しません。そのため体の外に陰嚢という袋を下げ、その中に精巣を入れているのです。
【2】陰茎
ねこの陰茎は1㎝程度で、普段は包皮に包まれています。小さいうえに表に出ることがないため、なかなか見ることはできません。先は細くなっており、トゲがついています。交尾時に膣をトゲで引っかく痛みにより、メスねこは排卵します。
そのため、ねこの受精率はほぼ100%であり、生理はありません。生理は排卵しても受精をしなかった際、厚くなった子宮内膜を排出するために起こります。ねこは排卵すればほぼ受精しますので、生理がないのです。
【3】前立腺
精液の分泌に関係する臓器です。ねこの精液は非常に濃厚で、0.05ccの精液内に3,000万~6,000万の精子が含まれます。濃度で考えると人間の8倍程度になります。
人間に生理や射精があるように、ねこもだんだんと繁殖に適した体に成長していきます。ねこの性的成長についてご紹介します。
胎児(胎仔)の頃はオス・メスの差がありません。胎仔が発達するに従い、Y染色体の有無によって未分化性腺がそれぞれの性別のものに変化していきます。Y染色体がある場合は精巣(オスの性腺)に、ない場合は卵巣(メスの性腺)になります。
また、オスの場合は精巣から分泌される物質やホルモンの影響により雌副生殖器の生成が抑制され、雄の副生殖器が発達します。メスはそのまま雌副生殖器が発達し、オス・メスの性差が出てきます。
メスねこは短毛種で6~7ヶ月、長毛種で12ヶ月頃に性成熟を迎えます。先ほど触れた通りねこには生理がありませんので、発情して初めて性成熟していることが分かるケースが多いです。
発情すると、メスねこは独特の大声で鳴きながら体をくねらせるようになるため、すぐに分かります。
繁殖を希望していない場合は、最初の発情が起こる1~2ヶ月前には避妊手術を行っておきましょう。
オスねこの精巣は、誕生時には体内にあります。生後20~30日頃、精巣が精嚢に降りてきます。何らかの問題があり精巣が下りてこない状態が「停留精巣(停留睾丸)」です。遅くとも8ヶ月までに精巣が下りてこなければ、ほぼ下りてくることはありません。開腹手術を行い、精巣を取り除く処置が必要になります。
オスねこの性成熟は生後3ヶ月頃から始まり、生後9~12ヶ月頃に交尾ができるようになります。去勢手術を行う場合は生後6~7ヶ月頃がベストです。その頃には体もしっかりしており、手術に耐えられるためです。
生殖器が充分に発達し、性成熟すると、ねこは発情し、交尾をするためにさまざまな行動をするようになります。ねこの発情と交尾のメカニズムについてご紹介します。
メスねこは日照時間の長い時に発情します。そのため住んでいる地域により、発情する季節が異なります。日本では1月~8月が繁殖期となり、特に春(2~4月)、夏(6月~8月)がピークです。しかし、この発情は人工の照明でも引き起こされるため、室内飼いのねこの繁殖期はさらに長くなります。メスねこは繁殖期中、2~3回程度発情します。
オスねこには発情期がなく、発情したメスねこのにおいや声、行動に刺激されて発情します。精巣の機能は季節を問わず一定と考えられていますが、はっきりしたことは分かっていません。
発情期にオスねこが近づくと、腰を持ち上げてオスを誘う「ロードシス行動」を取ります。
オスねこは発情したメスねこに近づき、耳のあたりを舐めたり、陰部のにおいをかいだりします。そして交尾ができそうと判断したら、メスの首をくわえてマウンティングし、陰茎を膣に挿入して腰を数回振り、射精します。
ねこの陰茎にはトゲがあるため、メスねこは苦痛を感じて大声を出したり、オスねこにかみつこうとしたりすることがあります。その痛みが刺激になり、メスねこは排卵するのです。
しかし、排卵は交尾から24~30時間後に起こるため、受精するためには原則として数回の交尾が必要です。
最後に、ねこの生殖器に関わる病気について解説します。
メスねこの生殖器(卵巣、子宮、乳腺)に起こりやすい病気は以下の通りです。
器官 | 病名 | 詳細 |
卵巣 | 副卵巣 | 胎仔期の「中腎管」が退化せず残ったもの。性腺刺激ホルモンが分泌されるため、避妊後に発情することがある。 |
卵巣遺残症 | 避妊手術時に卵巣を取り残してしまった状態。避妊後に発情することがある。 | |
卵胞嚢腫 | 多数の卵胞が発育し、卵巣が肥大する | |
子宮 | 子宮蓄膿症 | 子宮内に膿が溜まり、元気喪失や発熱などの症状を引き起こす。重篤な場合は嘔吐、脱水、貧血などが起こり、死に至る危険性がある。 |
子宮粘液症 | 妊娠していない状態で子宮内膜に子宮乳が分泌され、子宮内に溜まる病気。通常は無症状だが、子宮蓄膿症に移行する恐れがある。 | |
乳腺 | 乳腺過形成 | ホルモンの影響によって乳腺にできる良性の繊維腺腫。乳房が腫れて硬くなる。腫れが大きくなり過ぎると歩行困難になることもある。 |
乳腺炎 | 乳腺が細菌に感染して熱を持ち、腫れて疼痛が生じる。乳汁に血や膿が混じることもある。 | |
卵巣・子宮・乳腺 | 腫瘍 | ねこの場合はほぼ悪性腫瘍。乳腺腫瘍は乳房付近のしこり、卵巣・子宮は陰部からの出血が起こる。一般的には、腫瘍が発生した部位の切除を行う。 |
オスねこの生殖器(精巣、陰茎)に起こりやすい病気は以下の通りです。
器官 | 病名 | 詳細 |
精巣 | 潜在精巣 | 精巣が陰嚢に降りてこない状態。両精巣の摘出による治療が一般的。精巣腫瘍になる確率が通常より高いため注意が必要。 |
精巣炎 | 外傷からの細菌感染により発症。精巣が腫れあがり、発熱、倦怠感、疼痛が生じる。 | |
精巣腫瘍 | 精巣が腫れる。潜在精巣が腫瘍化した場合、レントゲンや超音波による検査をしなければ発見できない。
他の症状として、脱毛や貧血が見られることがある。 |
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陰茎 | 包皮の癒着 | 包皮が癒着し、排尿ができなくなる。授乳期にサッキング※をされることにより発症する
サッキング:授乳期に乳頭と間違えて他の個体の陰茎や口などを吸うこと |
泌尿器系の病気もオス・メスで差があります。
メスの尿道は短いため、最近が膀胱に入りやすく、オスよりも膀胱炎になりやすい傾向にあります。
一方、オスの尿道は細長く、カーブしています。これはおしっこを勢いよく飛ばしてマーキングをするためです。メスよりも尿道が細く、尿路結石症になりやすいため注意が必要です。
ねこの生殖器についてご紹介しました。生殖器はどこかタブーのような、話すと恥ずかしいという感覚があるかもしれませんが、非常にデリケートで大切な器官です。病気や望まない繁殖を防止するためにも、ねこの生殖器をしっかり理解することが重要です。