ねこのお尻はとてもキュート。ふわふわした毛に覆われていて、お尻から太もも、足への曲線も芸術的です。そんなねこのお尻には、たくさんの秘密が隠れています。
ねこのお尻にまつわる行動の謎や、お尻の異常から分かる病気など、ねこのお尻にまつわるお話をご紹介します。
ねこの「お尻」といいますが、実はねこには人間のお尻のようなものはありません。
人間のお尻は「尻臀」※が盛り上がっていますが、ねこは腰から太ももがつながっており、人間のお尻に当たる部分がないのです。
ねこのお尻はぷっくりしているように見えますが、触ってみるとお尻のお肉ではなく、毛が盛り上がっているだけなのが分かります。
※尻臀:お尻の左右に分かれた肉付きの豊かな部分。しりこぶた・しりたぶ・しりべた。
続いて、ねこのお尻にまつわるふしぎな行動とその理由をご紹介します。
「お尻トントン」とは、ねこの腰やお尻を軽くトントン、ポンポンと叩くことです。お尻トントンをすると、体をクネクネさせて喜ぶねこも多いです。
これは、しっぽのつけねに生殖器につながる神経が多いため、刺激すると気持ち良くなるからだと考えられています。特にメスねこは交尾に似た刺激を感じることもあるようです。
ねこがお尻を上げて甘えてきたら、お尻トントンをしてほしい合図かもしれません。手のひらや指で優しくトントンしてあげましょう。
ただし、刺激が強いため嫌がるねこもいます。また、発情中のメスねこにはかえってストレスになることもありますので、ねこの様子を見ながら慎重に行いましょう。
寝ていると布団のうえにねこが乗ってきた、でもなぜかお尻をこちらの顔に向けている…そんな体験をしたことのある飼い主さんも多いのではないでしょうか。
一見、無礼に見える行動ですが、実はお尻を向けるのは愛情と信頼の証なのです。
ねこに取って、自分の視界が届かない背中やお尻は、いつ敵に襲われるか分からない無防備な部分です。そんな背中やお尻を向けられる相手=信頼しているということなのです。
また、甘えるのが苦手なねこが、飼い主にお尻だけつけて座っていることもあります。そのねこなりの愛情表現なので、静かに受け止めてあげましょう。
ただし、飼い主から遠く離れた場所でお尻を向けて座っているのはまた意味合いが違います。こちらは「静かにしてほしい」、「放っていてほしい」という気持ちの現れです。愛猫がお尻を向けて座っている時は、構わないでそっとしておきましょう。
2匹のねこがお互いのお尻をくんくんとかぎあっているのを見たことはあるでしょうか。これはお尻のにおいから相手の情報を読み取ろうとしているのです。お尻のにおいからはそのねこの年齢や性別、血縁関係、健康状態、発情しているかどうかといった情報が分かるといわれています。ねこのお尻のかぎあいは、人間でいうところの、SNSの相互フォローのようなものなのです。
しかし、そうして仲良くお尻をかぎあえるのは知り合い同士のねこです。初対面の場合はもっと慎重で、儀式のような行動をとります。
まず、2匹のねこは自分が先に相手のお尻をかごうと、ぐるぐる回ります。弱い部分であるお尻を、知らない相手の顔の前に出すのはなかなか不安なことなのです。そうして回っているうちに優劣が決まり、劣位のねこが優位のねこにお尻を見せてにおいをかがせます。なんだか改まった場所での名刺交換のような、緊張感高まる場面です。
ねこは、お尻を床にズリズリこすりつけながら歩くことがあります。一見ユーモラスに見えますが、肛門周辺が痛い、かゆいなど違和感を覚えている時に行う行動です。
原因としては下痢や便秘のような排便異常、肛門腺の病気、寄生虫などが挙げられます。
ねこのお尻にまつわる病気については、この後で詳しくご紹介します。
ねこのお尻が臭い、お尻から変なものが出てきた…お尻に異常が見られる時は、何らかの病気にかかっている恐れがあります。
ねこのお尻に良く見られる異常と、そこから考えられる病気をご紹介します。
ねこのお尻が臭い理由としては、以下の3点が挙げられます。
うんちやおしっこのにおいでもなく、病気にかかってもいないのにお尻が臭う場合は、「肛門腺液」が原因かもしれません。
肛門腺液は、ねこの肛門の両側にある肛門嚢にたまり、肛門腺から分泌される液です。色は茶色~灰色のように見え、独特の臭いがします。
肛門腺液は排便時や、興奮した際に分泌され、個体の識別や縄張りの主張といった役割を果たしています。
いうなればねこのコミュニケーションツールであり、異常なものではありません。
しかし、常にお尻から肛門腺液のにおいがする場合は「肛門腺炎」という病気にかかっている恐れがあります。
肛門腺炎とは、肛門腺液がうまく排出されずに肛門嚢に溜まり、炎症を起こす病気です。重症化すると肛門嚢が破裂し、たまった肛門腺液が膿や血液と一緒にあふれてしまい、きつい臭いを発します。
ここまで重症化してしまうと治療も大変になりますので、早期発見、早期対処が重要です。
肛門腺の分泌がうまくいっていない場合は肛門腺絞りが有効です。親指と人差し指を肛門の4時と8時の方向にある肛門腺に当て、そっと押し上げると液が分泌されます。
難しい場合は無理に行わず、獣医師に相談すると良いでしょう。
ねこのお尻におできやしこりのようなものがある場合は、肛門周囲腫瘍である恐れがあります。肛門周囲腫瘍は、良性の「肛門周囲線種」、悪性の「肛門周囲腺癌」、「肛門嚢アポ九厘腺癌」があります。
肛門周囲腫瘍は犬に多く見られますが、ねこが発症することはごくまれです。しかし、だからこそ見落としてしまう危険性があります。
ねこの肛門の周辺におできがある場合は、必ず獣医師に相談しましょう。また、肛門腫瘍のほかの症状として、便秘や嘔吐、食欲不振が見られることもありますので、ねこの様子を注意深くチェックすることも重要です。
ねこの肛門からなにかが出ている…びっくりしてしまうかもしれませんが、むやみに出ているものを引っ張ったり触ったりするのは良くありません。まずは冷静に出ているものを確認して、適切な対処をしましょう。
ねこの肛門から出るものの例と、その原因や対処法をご紹介します。
ねこのお尻からひもやおもちゃのかけらなどの異物が出てくることがあります。これは誤食したものが消化管を通り、肛門から出てきている状態です。
特に注意したいのはひも状のものです。肛門からはみ出しているからと無理に引っ張ると、腸を傷つけてしまうことがあります。必ず、動物病院で処置を受けましょう。
ねこの肛門から出ている白いひも状のものや米粒状のものは、寄生虫です。
特にねこに良く寄生するのは「条虫」です。条虫は細長く平たいひも状の寄生虫で、サナダムシを始め、マンソン裂頭条虫、瓜実条虫、ネコ条虫などさまざまな種類があります。
健康なねこであれば、少量の寄生虫に寄生されていても健康上問題はありません。しかし、子ねこや病気のねこなど体力の少ないねこが大量に寄生された場合、下痢や食欲不振といった体調不良を引き起こす恐れがあります。
ねこのお尻から白いものが出てきたら、病院で駆虫薬を投与してもらいましょう。
肛門からピンク色のできものがのぞいている場合は、「脱肛」や「直腸脱」の恐れがあります。これらは肛門から体内の粘膜や直腸が出てしまう病気で、以下のような原因により起こりえます、
ピンク色のできものが見えたら、潤滑油を塗ってそっと肛門の中に戻します。そしてすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
ねこには生理がありません。そのため、お尻のあたりから血が出ている場合は何らかの病気が疑われます。
先ほどご紹介した肛門腺炎や肛門周囲腫瘍のほか、消化器系(大腸炎)、泌尿器系(膀胱炎)、生殖器系(子宮蓄膿症、膣炎、包皮炎)などが考えられます。
ねこのお尻から血が出る場合は、下痢や嘔吐、元気喪失といったほかの症状がないかを確認しましょう。
また、お尻を痛がっていないか、排便や排尿を嫌がっていないかなど、行動面で普段と違う点がないかどうかもチェックして、獣医師に相談しましょう。
ねこのお尻に関するさまざまな秘密や、お尻に関係する病気について解説しました。
もふもふの毛で包まれたねこのお尻はとてもキュート。でもかわいいだけではなく、排泄や繁殖に関わる器官や神経の集まったデリケートな部分であり、ねこ同士の大事なコミュニケーションツールでもあるのです。
デリケートな部分だけに病気や異常が見られることも少なくありません。ねこのお尻をじっくりチェックして、気になる点があればすぐに獣医師に相談しましょう。