ねこの口の中にずらりと並んだ小さなかわいい歯。こんな小さな歯が虫歯になったら…と心配になってしまいます。ねこの歯の健康を保つためには、どのような点に気をつければ良いのでしょうか。ねこの歯に関係する病気やトラブルと対処法について解説します。
まずはねこの歯の本数や形、生え変わりのタイミングといった基礎知識をご紹介します。
大人のねこの歯は全部で30本です。犬の42本、人の32本(親知らず含む)と比較すると少ないことが分かります。ねこは頭蓋骨が小さく、それだけ歯の本数も少なくなっているのです。
歯の種類と本数、役割は以下のようになっています。
歯の種類 | 本数 | 役割 |
門歯(切歯) | 12本(上6本、下6本) | 骨から肉をそぎ落とす
毛づくろい |
犬歯 | 4本(上2本、下2本) | 獲物を咬んで倒す |
前臼歯 | 10本(上6本、下4本) | 肉を噛み切る |
後臼歯 | 4本(上2本、下2本) | 肉を噛み切る
硬いものを噛み砕く |
ねこの歯は獲物を捕まえたり、肉の塊を噛み切ったりする際に使います。
しかし、飼いねこは獲物を捕まえる必要はありません。ごはんも肉や骨のかたまりではなく、粒状のドライフードや柔らかいウェットフードです。ねこは小さな食べ物であれば丸飲みします。そのため、飼いねこは歯がなくてもそれほど支障はありません。
人間と同じく、ねこの歯も乳歯から永久歯に生え変わります。生まれたばかりの赤ちゃんには歯が生えていませんが、離乳期を迎える15~20日頃から乳歯が生え始めます。
乳歯には後臼歯がなく、全部で26本です。
永久歯の生え変わりは3ヶ月頃からです。門歯、犬歯、臼歯の順に歯が生え変わり、6ヶ月頃には30本の永久歯がそろいます。
生え変わり時期の子ねこの口の中を見ると、乳歯と永久歯が二重に生えているのが分かります。永久歯がある程度育つと乳歯は自然に抜けますが、まれに歯茎に残ることがあります。これを「乳歯遺残」といいます。永久歯の成長が阻害される要因になりますので、乳歯が抜けない場合は獣医師に相談しましょう。
ねこの口腔内には、人にとって危険な細菌がいます。ねこに咬まれるなどして菌が体内に入ると、命に関わる病気を引き起こすこともあります。
特に注意したいのは「パスツレラ菌」と「カプノサイトファーガ属菌」です。
・パスツレラ菌
ねこの口腔内や爪に存在する常在菌です。健康な人であれば感染しても問題はありませんが、抵抗力が落ちている場合は髄膜炎などを引き起こすこともあります。
・カプノサイトファーガ属菌
犬やねこの口腔内に存在する常在菌です。免疫力の低い人がこの菌に感染すると、髄膜炎や敗血症になってしまうこともあります。
清潔な環境で暮らす飼いねこでも、口の中にはたくさんの細菌がいます。もしねこに咬まれたら、傷口をよく洗ってすぐに病院へ行きましょう。
歯の病気としてまず思い浮かぶのが「虫歯」と「歯周病」です。人を悩ませるこれらの病気は、ねこもかかるものなのでしょうか。
実はねこは人と比べると、虫歯になりにくく、歯周病になりやすいのです。以下に詳しくご紹介しましょう。
ねこが虫歯になりにくいのは、人と口内のpHが異なるためです。
虫歯は歯についた歯垢に虫歯菌がすみつき、糖分を栄養に酸を出して歯を溶かす病気です。酸を出す性質があることから、虫歯菌は酸性を好みます。人の口内は弱酸性(pH6.5~7.0)であり、虫歯菌が増えやすい環境になっています。
一方、ねこの口内は弱アルカリ性(pH7.5~9.0)です。そのため虫歯菌が増えにくく、虫歯になりづらいのです。
虫歯菌は酸性を好みますが、歯周病菌は酸性の環境では生きられません。ねこが歯周病になりやすいのは、口内が歯周病菌の好む弱アルカリ性であるためです。
また、口内がアルカリ性に傾くと歯石ができやすくなります。人の歯に歯石ができるまでには2週間程度かかりますが、ねこは2日~1週間程度で歯石ができてしまうといわれています。
歯石は歯周病を悪化させます。ねこが歯周病になりやすいのは、歯周病菌が好む口内環境であるのに加え、歯石のたまるスピードが速いためです。
ねこは虫歯になりづらいですが、歯周病を始めさまざまな歯の病気にかかります。特に注意したいねこの歯の病気や異常をご紹介します。
歯周病は歯周病菌が引き起こす歯の周辺を支える組織に起こる炎症です。歯周病がひどくなると、歯ぐきからの出血やよだれ、口臭といった症状が見られます。また、口の痛みから食欲不振になることもあります。
重症化すると歯が抜けるだけではなく、口腔内の菌が体中に運ばれ、感染症を引き起こすこともある危険な病気です。
歯周病を予防するためには、歯磨きなどのケアをして口内環境を清潔に保つことが重要です。
関連記事:ねこの歯はケアした方がいいの?ねこの歯磨きについて
歯肉口内炎は、歯肉に起こる炎症です。ねこの口内炎は治りにくいため、慢性口内炎と呼ばれることもあります。口腔内の微生物のバランスが崩れたり、微生物に対する免疫の過剰反応が生じたりすることで起こると考えられていますが、はっきりした原因は分かっていません。
症状としては口内の炎症や潰瘍、出血、痛みなどがあります。内服薬による治療も行われますが、難治性の場合は抜歯することが多いです。
吸収病巣は歯が顎の骨に吸収され、溶けたようになくなってしまう病気です。原因となるのは、歯の生え変わりの際に乳歯を溶かして抜けやすくする「破歯細胞」です。何らかの原因で破歯細胞が活性化し、永久歯に働きかけてしまうことで吸収病巣になります。
痛みや口臭、歯肉の腫れや出血などが主な症状です。重症化すると歯に穴が開いたり、抜けたりしてしまうこともあります。
歯の根元から病気になるため気づきづらく、薬による治療もできない厄介な病気です。
ねこに良く見られる病気で、罹患率は20~75%といわれています。ねこの口内をチェックし、気になる点があれば獣医師に相談しましょう。
歯並びに異常があり、きちんとしたかみ合わせができない状態です。上の歯もしくは下の歯が前に突き出ている、左右の歯のバランスが悪いなど、タイプはさまざまです。
遺伝やケガのほか、乳歯遺残も不正咬合の原因になりえます。基本的に抜歯による治療を行いますが、病院によっては歯列矯正ができることもあります。
ねこの歯がぐらついていたり、折れていたりする場合はどうすれば良いのでしょうか。ねこの歯に見られるトラブルと、その原因や対処法をご紹介します。
ねこの歯がグラグラしている時は、歯ぐきの下の歯根部が折れている恐れがあります。これを「歯根破折」といい、多くの場合ケガによるものです。
歯根の神経の状態が良い場合は修復処置が可能ですが、悪い場合は抜歯をしなくてはなりません。若いねこや、折れてから間もない場合は歯を残せる可能性が高いため、すぐに治療を受けましょう。
ケガやケンカ、交通事故などにより、歯が折れてしまうこともあります。これを「破折」といいます。ねこに良く見られるのは犬歯の破折です。
破折部分に歯髄を含むものは「複雑性破折」、含まないものは「単純性破折」といいます。
複雑性破折を放置していると病原体が入り込んで膿瘍ができてしまう恐れがあります。
折れた歯の中央に赤い穴が開いている(歯髄が見えている)場合は、速やかに動物病院で治療を受けましょう。
ねこの歯の色が変わる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
色 | 原因 |
黄色 | 加齢
食べ物による着色 |
茶色 | 歯石 |
ピンク | 歯肉炎
吸収病巣 破折による出血 |
灰色もしくは黒 | 歯髄の壊死 |
特にピンクや灰色、黒は重篤な歯の病気やトラブルが生じているという危険信号です。獣医師に相談しましょう。
ねこは虫歯になることこそほぼありませんが、決して歯の病気やトラブルと無縁というわけではありません。
特に歯周病になりやすく、食欲不振や歯の脱落、全身の病気につながる危険性もあるため注意が必要です。
また、ケンカや事故により歯が折れてしまうこともあります。まずはねこがケガをしないよう気を付けて、もし折れてしまった場合はすぐに動物病院で診察を受けましょう。
ねこの歯は口の中に隠れていて見えづらい部分ですが、だからこそこまめなチェックがかかせません。普段からねこの口の中を良く見て、いち早く異常を見つけてあげましょう。