柔らかくしなやかな体のねこ。人間のように骨や関節を痛めることはなさそうに見えますが、実はさまざまな理由から骨や関節の病気になることがあります。特に関節炎はシニアねこの90%以上がかかっているといわれており、ねこのQOL(生活の質)を下げる要因になります。
ねこを骨や関節の病気から守るためには、予防や早期発見が重要です。異常が見つかったら獣医師に相談し、適切な治療を受けることが愛猫の健康につながります。
今回の記事では、ねこの骨・関節の病気の症状や原因、治療法、予防法について解説します。
関節炎とは、関節に炎症が発生している状態です。ねこは関節の異常が多く、6歳以上のねこの61%に関節の異常が見られたという報告があります。
また、12歳以上のシニアねこでは90%以上が関節炎を患っているといわれています。
関節炎の主な症状は、患部の腫れや痛み、歩行困難などです。しかし、ねこは痛みを隠すうえ、普段はあまり動かないため、初期段階では目立つ症状が見られない場合があります。
ねこが以下のような行動を取る場合は、関節炎を疑いましょう。
関節炎の主な原因は以下の4つです。
【1】加齢
疲労が蓄積し、摩耗・変形することで関節炎になります
【2】肥満
肥満のねこは関節に負担がかかるため、関節炎になりやすい傾向にあります。
【3】先天性・遺伝性の異常・病気
生まれつきの異常や病気により関節炎を発症するケースもあります。よく知られるのがスコティッシュ・フォールドの「骨軟骨異形成症」や、シャムの「股関節異形成」などです。これらの病気が関節炎の原因ともなるため、飼育したい品種がかかりやすい病気を知り、予防や早期発見に努める必要があります。
【4】病気やケガ
病気やケガによって関節に病原菌が入り込み、関節に炎症ができる場合もあります。また、過去のケガにより体の一部分に負担がかかることで関節炎になるケースもあります。
関節炎を根本的に治療することは難しいため、薬やサプリメントによる対処療法が主な治療法になります。
また、肥満が原因となっている場合は食事や運動による体重管理を行う場合もあります。
関節炎の最も有効な予防法は、肥満を防ぐことです。キャットフードの見直しや、適度な運動により、ねこが肥り過ぎないよう注意しましょう。
また、滑ったり高い所から落ちたりすると関節を痛めてしまいます。床材を滑りにくいものにする、ねこが飛び降りる場所に衝撃を吸収するクッションフロアを置くといった工夫をすると、思わぬ事故や関節炎のリスクを減らせます。
ねこのダイエット法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
骨軟骨異形成症は、骨や軟骨が変形する遺伝性の疾患で、特定の品種において特に多く見られます。
よく知られるのがスコティッシュ・フォールドです。チャームポイントもいえる折れ耳は、骨軟骨異形成症によるものです。折れ耳のスコティッシュ・フォールドは指の骨や手首、足首など、全身の骨や軟骨に異常が出る場合があります。お尻をぺたんとつけて座る特徴的な「スコ座り」も、体の痛みを和らげるためだと考えられています。
主な症状として挙げられるのは、手首や足首などの関節に大きなコブ(骨瘤)ができるというものです。コブが大きくなると関節の可動域が狭められ、歩き方がぎこちなくなります。また、関節の痛みや手足の腫れを伴う場合もあります。
関節炎と同じく、食事やトイレ、遊びの際の動きに違和感が見られることが多いため、普段からねこの行動をよくチェックしましょう。
先ほど触れたとおり、骨軟骨異形成症は遺伝疾患です。
スコティッシュ・フォールドの他には、マンチカンやアメリカン・カール、ヒマラヤン、ペルシャがこの病気を発症しやすい傾向にあります。
骨軟骨異形成症の治療法は確立されていません。基本的には痛みや進行を抑えるための治療を行います。
具体的な治療法としては、薬やサプリメントの処方、放射線療法などが挙げられます。
骨軟骨異形成症は遺伝性疾患であり、予防は困難です。早期に異常に気付き、早期治療を施すことで、ねこのQOLを保つのが一番の対策といえます。
特に上記でご紹介した品種のねこを飼っている場合は、レントゲン撮影により、ねこの体の状態を把握しましょう。
骨粗しょう症は、骨の新陳代謝のバランスが崩れることによって骨密度が低下し、骨がもろくなる状態を指します。
骨がもろくなると慢性的な痛みが生じるため、動きが鈍くなったり、触ると痛がるそぶりを見せたりするようになります。
また、骨折のリスクが上がり、ちょっと転んだりぶつけたりしただけでも骨折することがあります。
特にハイシニアのねこの場合、骨折から寝たきりになってしまう場合があるため注意が必要です。
人と同じく、ねこも加齢により骨の新陳代謝が悪くなり、骨粗しょう症になりやすくなります。特に7歳以上のねこは骨粗しょう症になるリスクが高まるため注意が必要です。
運動不足や栄養不足も骨の形成を妨げる要因になり、骨粗しょう症を引き起こす場合があります。
もう一点注意したいのが病気による骨粗しょう症です。ねこに多い腎臓病や、副甲状腺機能亢進症は骨密度を低下させる要因になります。
ねこの腎臓病については以下の記事で詳しくご紹介しています。
骨粗しょう症の原因が病気の場合は、まずその病気の治療から取り組みます。腎臓病は根本治療が難しいため、食事療法や点滴・投薬で症状を抑えるというのが主な治療法です。
副甲状腺機能亢進症も同じく食事療法や投薬を行いますが、改善が見られない場合は摘出手術をします。
栄養不足が原因の場合はキャットフードの切り替え、運動不足が原因であれば適度な運動により改善する場合があります。食事や運動の見直しは自己判断で行わず、必ず医師に相談するようにしましょう。
骨粗しょう症の一番の予防法は、栄養バランスの整った食事と適度な運動です。特にシニアのねこは食事や運動の量が減るため、適切に管理してあげましょう。
また、骨粗しょう症を引き起こす病気を予防することも重要です。定期的に健康診断を受け、病気が見つかった場合は迅速に治療しましょう。
骨肉腫とは、骨を構成する組織(骨髄、骨膜、皮質骨)にできるがんです。
ねこの骨肉腫は非常に珍しく、10万頭に4頭程度といわれています。特に後ろ足にできやすく、転移はあまりありませんが、まれに脳や肺、肝臓などに転移することもあります。
痛みが非常に強く、発症箇所をかばうように歩くため跛行(足を引きずるように歩く)が見られるようになります。変形や腫れが生じることもあります。
ねこの骨肉腫は非常にまれであり、原因も分かっていません。高齢のねこに発生するケースが多いですが、1歳の若いねこの発症事例もあります。
また、発症しやすい品種も特にありません。
発症箇所が足の場合は外科手術でがんの部分を取り除きます。基本的に断脚になりますが、ねこは体が軽く、バランス感覚にも優れているため、足を失っても日常生活は十分に可能です。
背骨や頭蓋骨に発症した場合は切除ができません。放射線照射による痛みやまひなどの症状緩和がメインになり、予後はよくないとされています。
なお、犬の場合は抗がん剤などの化学療法が行われることがありますが、ねこの骨肉腫では効果的な療法が確立していません。
発生原因が分からないため、予防法もありません。早期発見・早期治療により寛解が望める病気なので、普段からの健康チェックが重要です。
ねこの骨や関節の病気を防ぐためには、食事や運動に注意して、肥満や骨密度の低下を防ぐことが重要です。また、普段の動きをよく観察して、動きがゆっくりになったり、ぎこちなくなったりした場合は、すぐに獣医師に相談しましょう。
定期健診も重要です。とくに関節の病気になりやすい品種やシニアねこはこまめに健診を受け、病気の早期発見・早期治療につなげましょう。
ねこの骨や関節の病気は根本治療が難しいものもありますが、対処療法によりQOLを保つことは可能です。大切な家族であるねこが元気で楽しく生活できるよう気を配ってあげましょう。