
のんびりと目を細めて寝そべっているねこ。そんな姿を見て「元気そう」と思っていても、実はどこかに痛みを抱えているかもしれません。
ねこは痛みを感じても、それを表に出さない動物です。そのため、飼い主が不調に気づくのが遅れてしまうことも少なくありません。
では、なぜねこは痛みを隠すのでしょうか? そして、ねこの痛みに早く気づくためには、どんなサインを見逃さないようにすればよいのでしょうか?
この記事では、ねこが見せる「痛みのサイン」について詳しく解説していきます。

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ねこは「痛みを隠す動物」とよく言われます。
その理由は、野生時代から受け継がれてきた生きるための本能にあります。
自然の中では、ケガや病気をしていることが他の動物にばれてしまうと、とても危険です。弱っていることが分かるとすぐに敵に狙われてしまうからです。
だからねこは、つらくてもなるべく普段どおりにふるまって、「大丈夫そう」に見せようとします。
さらに具合が悪くなって動けなくなると、安全な場所に身をひそめて、じっと体力が戻るのを待つこともあります。
でも、残念ながら回復できないまま、そこで静かに息を引き取ってしまうこともあるのです。
「ねこは死期が近づくと姿を消す」と言われるのは、こうした行動から来ていると考えられています。

ねこが痛みを感じる原因は、人とあまり変わりません。たとえば、ケガや病気、そしてストレスなどが挙げられます。
このなかでも、特にねこによく見られるケースについて、これから詳しくご紹介していきます。
ねこが痛みを感じる原因のひとつに、けがややけど、骨折といった「外からのけが(外傷)」があります。
ねこの体はふわふわの毛でおおわれているため、見た目だけではケガに気づきにくいことも少なくありません。
でも、行動をよく観察すると、次のようなサインが見られることがあります。
病気が原因で痛みを感じるケースもあります。
頭痛や歯の痛み、皮膚のトラブル、内臓の病気など、ねこにもさまざまな疾患があります。
このうち、特にねこがかかりやすく、強い痛みをともなうことが多い病気としては、次のようなものが挙げられます。
関節炎は、シニアねこの約90%が抱えているとも言われるほど、ねこにとても多い病気です。関節の中にある軟骨(なんこつ)がすり減ることで炎症が起こり、痛みや動きにくさの原因になります。
主な原因は加齢ですが、それだけではありません。肥満や遺伝、ケガなどがきっかけで、若いねこでも関節炎になることがあるため、年齢にかかわらず注意が必要です。
関節炎のねこに見られやすいサインとしては、次のような行動の変化があります。
関節炎は、一度発症すると完治が難しく、痛みを和らげるための「対処療法」が中心になります。
そのため、日ごろからねこの動きをよく観察して、小さな変化にも気づけるようにしておくことが大切です。
気になる様子があれば、早めに動物病院で診てもらいましょう。
尿路結石症も、ねこがかかりやすい病気のひとつです。腎臓でつくられた尿が膀胱に届くまでの通り道である「尿路」に、結石(石のようなかたまり)ができてしまう病気です。
この結石が尿道につまると、痛みをともなう排尿障害を引き起こします。さらに悪化すると、尿道閉塞から急性腎不全や尿毒症を引き起こし、命にかかわることもあるため注意が必要です。
以下のような行動や症状が見られる場合は、尿路結石症の可能性があります。
このような症状が見られたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。
なお、ねこはもともと水の少ない砂漠で暮らしていた動物です。そのため、水分をあまり取らなくても生きられる代わりに、尿を濃縮して出す体のしくみを持っています。
このしくみが、腎臓や膀胱に負担をかけやすく、腎臓病・膀胱炎・尿路結石症などの泌尿器系の病気につながることもあるため注意が必要です。
日ごろからしっかり水分をとれるように工夫したり、ストレスの少ない環境を整えたりすることで、これらの病気のリスクを下げることができます。
難治性口内炎は、ねこによく見られる口の病気のひとつです。人間の口内炎とちがって、痛みが長く続いたり、広い範囲にわたって強い症状が出たりすることがあります。
原因としてはウイルスや細菌、アレルギー、免疫のはたらきの乱れなどが関わっていると考えられていますが、はっきりとはわかっていません。
痛みがひどくなると、ごはんを食べられなくなることがあり、水も飲めずに脱水や体力の低下を起こし、命にかかわる状態になることもあります。
次のようなしぐさが見られるときは、口の中に違和感や痛みがあるのかもしれません。
早い段階で気づいて治療を始めれば、薬などで症状をおさえられることもあります。
「いつもとちょっとちがうかも?」と思ったら、早めに動物病院で診てもらいましょう。
「ストレスで胃が痛い」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。実は、ねこも人と同じように、強いストレスが原因で体に痛みが出ることがあります。
そのほかにも、ストレスによって下痢やおう吐が続いたり、毛をむしったり、トイレ以外の場所でおしっこをしてしまうなどの行動が見られることもあります。
ねこがストレスを感じるきっかけは、「いつもとちがう環境」や「イヤな刺激」であることが多いです。たとえば、次のようなことが原因になることがあります。
このような状況が続くと、ねこは不安を感じて体調をくずしてしまうことがあります。
ねこが安心して過ごせるように、できるだけ変化をゆるやかにしたり、落ち着ける場所をつくったりして、心と体のケアをしてあげましょう。

ねこの痛みに気づくためには、ふだんの行動や表情をよく観察することが大切です。
以下のようなサインに気をつけて、ねこの「いつもとちがう様子」を早めに見つけてあげましょう。
ねこは苦痛を感じると、歩き方や姿勢、興味・関心の向き方に変化が見られます。痛みの程度とねこの行動を表に示すと以下のようになります。
※あくまで目安です。不安な点があれば獣医師に相談してください。
| 痛みの程度 | 行動 |
| なし | ・静かに、満足そうにしている
・休息中の呼吸はゆっくりで心地よさそう ・おやつやおもちゃに関心を示 |
| 軽度 | ・普段と行動が違う(遊ばない、隠れる、おもちゃやおやつへの興味が薄い)
・痛い部分を触ると反応することがあるが、毎回反応するわけではない |
| 軽度~中程度 | ・頭を下げてしゃがみこむ
・しっぽを体につけ、四肢は体の下にしまう ・外の刺激や飼い主への反応が少なくなる ・目の輝きがなくなり閉じぎみになる ・毛のつやがなくなる ・痛みのある部位を舐める |
| 中程度 | ・鳴く、うなる
・飼い主が近づくと威嚇する ・痛い部分を触ると攻撃的になる ・痛みのある部位を舐めたりかんだりする |
| 中程度~重度 | ・倒れるように横たわる
・名前を呼んでも反応しない ・体を触っても反抗する元気がない |
ねこは痛みを隠す動物ですが、それでも痛みを感じているときには、表情にごくわずかな変化があらわれます。
そうした表情の変化からねこの痛みのレベルを判断するために、2019年に開発されたのが「グリマススケール(しかめっ面スケール)」です。
ねこが痛みを感じているときには、耳が少し下がったり、目が細くなったりして、まるで「しかめっ面」のような表情になります。
その微細な変化を観察することで、どのくらい痛いのかを推しはかることができます。
グリマススケールで見るべきポイントは以下の5つです。
それぞれのポイントの見方を表にまとめると以下のようになります。
| 痛みはない | やや痛みがある | 明らかに痛みがある | |
| 耳 | 前向き | 少し外向き | 平らで後ろ向きに回旋 |
| 目 | 開いている | 少し閉じている | 細めている |
| マズル | リラックスして丸い | 少しカーブするかまっすぐ | 張っており横の楕円形上になっている |
| ひげ | 自然にカーブ | 少しカーブするかまっすぐ | まっすぐで前向き |
| 頭 | 肩のラインより上 | 肩のライン | 肩のラインより下か前に傾く |
なお、グリマススケールは、ケガや突然の病気などによる「急性の痛み」を見つけるために使われる方法です。
一方で、関節炎などの慢性的な痛みは、ゆっくり進んだり、日によって痛みの強さが変わったりすることが多いため、表情の変化だけでは判断がむずかしいこともあります。
そのため、ねこが慢性的な痛みを抱えているかどうかを知るには、表情のほかにも、動きやしぐさなどの行動の変化をしっかりと観察することが大切です。

最近では、ねこの痛みをチェックできるアプリも登場しています。そのひとつが、株式会社Carelogy(ケアロジー)が開発した「CatsMe!(キャッツミー)」です。
先ほどご紹介したように、ねこは痛みを感じると表情にわずかな変化が現れます。CatsMe! は、ねこの顔を撮影してアップロードすると、AIがその表情を読み取り、痛みがあるかどうかを判定してくれるアプリです。
判定の精度はなんと95%以上とされており、かなり高い確率でねこの痛みの有無を判断できると言われています。現在は「急性の痛み」のみを対象としていますが、今後は慢性痛への対応や、動画による動作解析などの機能も開発が進められているそうです。
今回の記事では、「ねこの痛みのサイン」をテーマに、ねこが痛みを隠す理由や、主な原因、そして痛みに気づくための方法をご紹介しました。
ねこはとてもがまん強い動物で、痛みがあってもそれを表に出すことはほとんどありません。これは、野生で生きのびるために身につけた本能によるものです。
でも、よく見ると、ねこは表情やしぐさ、行動の変化でそっと痛みを伝えてくれていることがあります。
いつもとちがう場所でじっとしていたり、飼い主さんのそばにいたがったりするのも、痛みのサインかもしれません。
また、最近ではねこの表情から痛みを判定できる便利なアプリも登場しています。こうしたツールも上手に活用しながら、ねこの小さなサインを見逃さず、できるだけ早く痛みに気づいてあげましょう。