猫は犬のようなトレーニングはできない、と思われがちですが、工夫すればねこもしつけをしたり、トリック(芸)を覚えさせたりすることができます。
ねこに有効なトレーニング法として、クリッカーという道具を使った「クリッカートレーニング」があります。
ねこにとってもクリッカートレーニングは大好きな飼い主と楽しく遊べる時間。心身に良い刺激があり、飼い主との信頼関係を築く効果も期待できます。
今回の記事では、クリッカートレーニングの方法や注意点について解説します。
クリッカーとは、動物のトレーニングに使われる道具です。手のひらに収まるくらいのサイズで、ボタンや金属板を押すと「カチッ」とクリック音が鳴ります。このクリック音が聞こえた時におやつなどのごほうびをあげると、ねこは「クリック音=嬉しいことがある」と覚えます。このクリック音を利用して、ねこにしつけやトレーニングを行うのです。
クリッカーを使ったトレーニングは「叱る」という要素がないので、自由気ままなねこでも楽しみながらトレーニングを受けることができます。
クリック音によるトレーニングを行う理由としては、以下の3点があります。
【1】誰が押しても同じ音が出る
クリッカーは誰が押しても同じ音が出ます。この「いつも同じ」というのが、ねこにとっては非常に重要です。
例えば、夫婦でねこを飼っているとします。夫婦二人でねこをしつける時、言葉で褒めるとどうなるでしょうか。
たとえ「良い子」と褒めたとしても、男女では声の抑揚や高低が異なるため、ねこは同じように「褒められている」と覚えにくい場合があります。
いつも同じ音がでるクリッカーはねこにとっても覚えやすく、複数人でトレーニングを行う際の混乱を防ぐことができます。
【2】他の生活音と混じらない
生活音の中で似たような音があると、ねこが混乱してしまいます。クリック音は生活音としてはあまり聞かない音であるため、クリック音が合図であると覚えることができます。
【3】ねこにとって不快な音ではない
たとえ普段聞かない音であっても、ねこの嫌いな大きな音、低い音、金属音などはトレーニングには向いていません。
クリッカーの「カチッ」という音は、ねこにとって不快な音ではないため、トレーニングに使えます。
クリッカーがない場合は、以下のようなもので代用できます。
しかし、本格的にトレーニングをする場合は使いやすく安定した音が出るクリッカーを使った方が良いでしょう。
クリッカートレーニングは飼い主にとってもねこにとってもさまざまなメリットがあります。主なメリットを以下にご紹介しましょう。
クリッカートレーニングによって、簡単なしつけができます。
ねこは犬よりしつけが難しいといわれています。集団で行動し、リーダー(飼い主)の命令に従うことに喜びを感じる犬とは異なり、ねこには人の指示通りに行動する動機が弱いためです。
しかし、クリッカートレーニングは分かりやすい指示とごほうびが連動しているため、ねこにとっても指示を聞くメリットがあります。
爪きりの時にじっとしておく、キャリーボックスに入るなど、簡単なしつけであればクリッカートレーニングで覚えてもらえます。
クリッカートレーニングを行うことで、ねこの心身に良い刺激を与えられる点がクリッカートレーニングのメリットです。
クリック音を聞いて適切な行動を取り、ごほうびをもらうという一連の行動を通じて、ねこは楽しみや達成感を得ます。
寝てばかりいるねこも、トレーニングをすることで適度に運動ができます。
特に刺激の少ない室内飼いのねこやシニアねこは、クリッカートレーニングを取り入れることで、楽しみながらストレス解消ができるでしょう。
クリッカートレーニングは愛猫にとって、飼い主との楽しいゲームであり、ごほうびをもらえる喜びもあります。
また、相手の意図を読み取り、その意図通りに行動して認めてもらうという一連の流れを通じて、信頼関係を築くことができます。
トレーニングを通じてコミュニケーションが活発化し、信頼関係が生まれる点もクリッカートレーニングの大きなメリットです。
クリッカートレーニングを行う際の準備物やタイミング、具体的な方法をご紹介します。
クリッカートレーニングを行う時の準備物は以下の通りです。
【1】クリッカー
ペットショップやECサイトなどで購入できます。先ほど触れたとおり、ボールペンなどでも代用できます。
【2】おやつ(ごほうび)
ごほうびになるおやつを準備します。クリッカー音の後にさっと出せるドライフードやねこ用のささみ、にぼしがおすすめです。
一口の量が多いとトレーニングだけで満腹になり、ごはんを食べなくなります。
ドライフード半分くらいの量を目安に、小さく砕いたり裂いたりしておきましょう。
すぐに出せるように、ウエストポーチや開閉が楽な入れ物に入れておくと便利です。
【3】棒
ねこに注目してもらいたいところを指し示すのに使います。指を使うと興奮したねこに咬まれてしまうことがあるため、棒を準備した方が安全です。
棒は先がとがっていないものを選びます。心配な場合はトレーニング用のスティックを買うと良いでしょう。また、クリッカーにスティックがついているものを選ぶのも便利です。
ねこは気まぐれで神経質な動物です。
気が乗らない時や、落ち着かない環境の中ではトレーニングができません。
トレーニングをする時は、ねこが集中できる静かな環境を整えましょう。他の人やねこのいない、飼い主と1対1の状態が望ましいです。
また、タイミングとしてはねこが落ち着いていて、お腹がすいている時を選ぶと、ごほうびのおやつほしさに指示を良く聞いてくれるでしょう。
それでは、具体的なトレーニング方法として、ねこに「お手」を教える方法をご紹介しましょう。
【1】クリック音とおやつを結びつける
まずはクリッカーを鳴らし、ねこにおやつをあげます。この時声は出しません。
また、クリッカーを鳴らしたらすぐにおやつをあげることも重要です。間が空いたり、順番が入れ替わったりしてはいけません。
何度か繰り返していると、ねこは「クリック音がするとおやつがもらえる」ことを覚えます。
【2】棒に鼻で触れさせる
クリック音とおやつが結びついたら、ここで棒の出番です。ねこの鼻先に棒を出すと、ねこはにおいをかごうとして鼻で棒に触れます。触れた瞬間にクリック音を鳴らし、おやつをあげます。
【3】棒に手(前足)で触れさせる
ねこはおやつがもらえることを学習すると、手を出しておやつをねだるようになります。その手に棒を出し、ねこが棒に触れたらクリック音を鳴らしておやつをあげます。
【4】「お手」を覚えさせる
ねこが「棒に触るとクリック音が鳴っておやつがもらえる」ことを覚えたら、自分の手のひらに棒をつけてねこに見せます。ねこが棒に触れようとしたらすばやく棒をはずし、手のひらに触れさせてクリック音を鳴らし、おやつをあげます。
ねこが手のひらに触るようになったら、ここで初めて「お手」という合図を使います。
上記のトレーニングを繰り返すと、「お手」という言葉を聞いただけで、人の手に自分の手を乗せるようになります。
クリッカートレーニングはねこと一緒に楽しみながら行うものです。
トレーニングの仕方を誤ると成果が出ないだけではなく、ねこに疲れやストレスを与えてしまう原因になります。
最後に、クリッカートレーニングをする時の注意点をご紹介します。
ねこの興味や気分はコロコロ変わります。長時間トレーニングをすると飽きてしまい、思うような成果が得られません。
一回のトレーニングは5分程度、長くても10分までにしましょう。
トレーニングをしていない時はクリッカーをしまっておきましょう。
ねこが置きっぱなしのクリッカーに触れ、クリック音がなった時に何のごほうびもないと、「クリック音=ごほうび」の学習がうまくいかないためです。
ねこは気まぐれな動物です。気が乗らない時にトレーニングをすると、ストレスの原因になります。
ねこがクリッカートレーニングを喜ばない時は、時間をおいてから挑戦してみると良いでしょう。
クリッカートレーニングは基本的に「ごほうび」とセットになっています。
ねこが悪いことをした時に、クリッカーを鳴らして大声で叱るということを繰り返すと、クリッカー音を不快に思うようになってしまいます。
ねこを叱る時はクリッカー以外の方法を使いましょう。低い声で叱る、霧吹きで水をかけるといった方法が有効です。
ねこのクリッカートレーニングについて解説しました。
ねこは学習能力が高く、特に嬉しいごほうびにつながることはすぐに覚えます。
良い行動を取り、クリック音がしたらごほうびがもらえることを覚えたら、ねこはどうすればごほうびがもらえるかを考えるようになります。
ねこの考える力を刺激し、楽しいゲームのような雰囲気の中で簡単なしつけができる点がクリッカートレーニングのメリットです。
また、トレーニングが成功した時には、飼い主とねこ、お互いの気持ちが通じ合う喜びも感じられるでしょう。
簡単な道具でできるクリッカートレーニングを、今日からさっそく始めてみてはいかがでしょうか。