「ねこは魚が好き」というのは日本人なら誰もが持っているイメージでしょう。
しかし、海外では肉好きとして知られているのはご存知でしょうか?
今回は、どうして日本では「ねこは魚が好き」のイメージが定着しているのか、またねこに魚を与える前に知っておくべきリスクについてもあわせて紹介します。
そもそも、ねこの祖先であるリビアヤマネコが暮らしていたのは乾燥した砂漠地帯です。
おもな獲物はネズミやトカゲといった小動物のほか、鳥類や昆虫類でした。
川や池のそばで暮らしていたわけでもないねこが、魚を好んで食べたと考えるほうが不自然なのです。
つまり、ねこが魚好きというイメージは、後からつくり出されたものである可能性が高いと言えるでしょう。
平安時代の宇多天皇の日記に愛玩動物として登場して以来、ねこは貴族や文化人に可愛がられるようになりました。
江戸時代になると穀物などを食い荒らすネズミを駆除する目的で、裕福な商人や町民のあいだでもねこを飼う人が増えたようです。
それからほどなくして庶民層にも広まっていき、やがて一世を風靡するねこブームが到来しました。
さて、当時の食生活は今と比べてかなり質素なもので、汁物とおかず1品だけの一汁一菜が一般的だったと言われています。
肉を食べる習慣がなかったため、おもなタンパク源は魚や豆でした。その魚も毎日は食べられなかったようです。
まだAAFCO(米国全米飼料検査官協会)も、総合栄養食という概念もなかったころのことですから、ねこがもらえたのは人間の食べ残しだったため、栄養状態はあまりよくなかったと考えられます。
ところが、ねこは真性の肉食動物。つまり、肉を食べないと生きていけない動物です。
良質な動物性タンパク質がたっぷり必要なのに、冷や飯に汁物の残りをかけただけのご飯で十分なはずがありません。
そんなところに切れ端でも、魚をもらったら真っ先に食いついたであろうことは容易に想像できます。
今で言えば、「ねこにちゅーる状態」なのですから、江戸の人々は「ねこって魚が好きなんだねー」と思ったに違いありません。
つまり、たまにしかありつけない魚をもらって目の色を変えるねこを見て、「ねこ=魚好き」という勘違いが生まれた可能性があるのです。
その後、時代は明治に移り、文明開化で欧米の文化が入ってくると、日本でも肉食が普及しはじめます。
しかし、ねこ=魚好きという勘違いが訂正されることはなく、そのまま令和の今も残っているわけです。
ようするに、「ねこが魚が好き」というイメージは、日本でねこが広く飼われるようになった江戸時代の食文化が大きく影響しているのだと考えられるのです。
ちなみに、真偽のほどはわかりませんが、アメリカでは生クリームが、イタリアではパスタが好きだと言われている話もあるそうです。
結局、ねこの好物は、その国の食文化を映す鏡なのかもしれません。
ねこは決して魚好きなわけではありません。でも、だからと言って魚を与えてはいけないという理由にはなりません。
実際、キャットフードには魚を主なタンパク源にしているものもありますし、むしろ魚由来の素材が入っていないフードのほうが少数派と言えます。
ただし、魚の中には与えないほうがいいものや、与え方に注意が必要なものもあります。
場合によっては病気や怪我の原因にもなりかねませんので、以下のポイントに気をつけてください。
※魚を与えることを推奨するものではありません。
ねこには幼いころに食べたものを好んで食べる習性があります。子ねこのうちから魚を食べさせていれば、当然魚好きのねこに成長します。
魚好きになったねこにねだられて、ついついお裾分けしてしまう飼い主さんも多いでしょう。
でも、サンマやイワシ、サバなどの青魚には注意しなくてはなりません。
青魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。
これらの不飽和脂肪酸は、血中の悪玉コレステロールを減らしたり、脳を活性化させたりなど、人間にとってはよい働きをしてくれます。
しかし、ねこにとっては「黄色脂肪症(イエローファット)」という病気の原因になる可能性が指摘されています。
不飽和脂肪酸を分解する際にはビタミンEを大量に消費します。
つまり、青魚を大量に食べてビタミンE不足となり、溜まった不飽和脂肪酸が酸化してしこりや炎症、壊死などの症状が引き起こされるのです。
このときに皮下や腹腔内の脂肪が黄色く変色することから黄色脂肪症と呼ばれています。
青魚や青魚を原料にした加工食品を日常的にたくさん与えなければ問題ないとはされています。
ですが、与えなければいけない食材でもないのにあえてリスクを冒す必要もありません。
愛猫の健康のためにも、青魚を避けることをおすすめします。
ねこの食物アレルギーと言われると、麦やトウモロコシといった穀物を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
実際、インターネットなどでも穀物アレルギーについて書かれた記事は多く見かけますし、穀物アレルギー対応をうたったキャットフードもたくさんあります。
ところが、ねこの食物アレルギーのうちで小麦やトウモロコシが原因になっているのはそれぞれ4%ずつにすぎません。
それに対して牛肉は18%、魚は17%と実に4倍以上のリスクがあるのです。
つまり、食物アレルギーを心配するなら、先に牛肉と魚を排除することを考えましょう。
愛猫に発疹が出たり、しきりにかゆがったりなどの症状が出た場合、まずは牛肉と魚を疑うべきなのです。
愛猫のおねだりに負けて、ついつい魚をあげてしまうんだ、という飼い主さんもいらっしゃるようですが、ねこの健康を守るためにはできるだけ魚は与えないようにするのが賢明です。
ねこにお刺し身をあげるときに気をつけなくてはならないのは与える量です。
というのは、体の小さなねこにとっては人間用のお刺し身ひと切れでさえ「大盛」になってしまうからです。
お刺し身ひと切れのエネルギー量は、
と言われています。たいしたことない数字に思えるかもしれませんが、ねこが1日に必要とするエネルギー量は人の10分の1から15分の1程度。
飼い主さんにとっては「たったひと切れ」「ほんのひとくち」でも、ねこにとっては10〜15切れの「特盛」に相当するエネルギー量になります。
飼い主さんがお裾分けするのがダメだとは言いませんが、その分だけご飯の量を減らすのを忘れないようにしてください。
それから、たとえどんなに可愛くせがまれたとしても、絶対にオカワリはいけません。
間違いなくカロリー過多になってしまうからです。
愛猫の健康を思うのであれば、お裾分けのあげ方には注意しましょう。
人間でも喉に刺さった魚の骨を病院で抜いてもらった、というような話を見聞きしたことがある人もいらっしゃるでしょう。
実は、ねこも同じように、魚の骨やウロコによる健康被害が起きることが知られています。
意外に思われるかもしれませんが、ねこは犬などのほかの動物と比べてあごの力が弱く、硬いものを噛み砕くのが苦手です。
しかも、体が小さい分だけ喉や消化管も細いため、骨やウロコが喉に刺さったり、内壁を傷つけたりするトラブルが起きやすい可能性は否定できません。
漁村などでは出荷できない小魚などをもらって食べるねこもいますから、そんなに心配しなくてもいいと言う人もいますが、あえてリスクを増やす必要はありません。
魚を食べさせるなら骨やウロコはしっかり取りのぞくのが安全だと考えるべきでしょう。
魚にはヒスタミン食中毒のリスクもあります。
ヒスタミン食中毒は、魚を食べた直後にじん麻疹が出たりなど、アレルギーのような症状が起きる食中毒です。
もともと魚に含まれているアミノ酸の一種「ヒスチジン」が分解されて生じる「ヒスタミン」が原因物質で、人間にもねこにもリスクがあります。
生の魚を室温で放置すると、付着していたモルガン菌が持つ酵素の働きでヒスチジンが分解されてヒスタミンが生成されます。
室温25度で24時間ほど放置すると、生成されるヒスタミンの量は人間が食中毒を起こしうる量の数十倍にまで増えると言われています。
厄介なことに、このヒスタミンは味やにおいに影響を与えないために気づきにくく、そのうえ加熱しても分解されません。
リスクを避けるためにも冷蔵庫で適切に保管しましょう。
なお、原因となるモルガン菌は魚のエラや内臓に多く存在するので、購入後はなるべく早く取りのぞくのがおすすめです。
ちなみに、取りのぞいた部位はゴミの日まで冷凍庫で保管するとにおいもしませんし、ねこにいたずらされる心配もありません。
アニサキスは魚介を生で食べる習慣のある日本ではよく知られた寄生虫です。
サバやイワシ、鮭、イカ、サンマなどの魚介の内臓や皮下に寄生していて、宿主のお刺し身などを介して人間に感染します。
ねこも人間同様にアニサキスに感染するおそれがあると考えられていおり、感染すると激しい腹痛や嘔吐といった症状があらわれます。
現時点では有効な治療薬はなく、内視鏡を使って外科的に摘出するか、アニサキスが死ぬのを待つしかないようです。
ただし、アニサキスは熱に弱いので、しっかりと火をとおせば心配はありません。
また、24時間以上冷凍することでも死滅しますから、冷凍または解凍のお刺し身もリスクは低いと言えます。
日本では「ねこは魚が好き」というイメージが定着していますが、それは日本人の食習慣によって生み出された単なる思い込みだと考えるのが妥当なようです。
もちろん、魚が好きなねこもいますので、決して間違いとは言いきれませんし、魚介類を原料に使ったキャットフードもたくさんあります。
しかし、ねこは魚を食べなければ魚好きにはなりませんし、当然おねだりすることもありません。
ですから、もしねこに魚をお裾分けするのであれば、以下の点に注意していただければと思います。
また、魚を使ったおやつなどもありますので、そちらを検討してみるのもおすすめです。