
光る目、敏感なひげ、柔らかい体……ねこの体には、優れた機能がたくさん備わっています。
そうした特徴を研究すると、私たちの暮らしをより便利で豊かなものにするヒントが見えてきます。
ねこの目に着想を得た反射材や、舌の構造をヒントにしたブラシなど、身の回りにはねこから生まれた技術や製品が数多くあります。
今回は、ねこの体や行動から発想を得て生み出された技術や製品をご紹介します。

ねこの特徴として思い浮かぶのは、柔らかくて素早く動く体や、ぷにぷにとした肉球ではないでしょうか。
こうした体の特徴は、私たちの暮らしを支える製品や技術のヒントにもなっています。
ここからは、ねこの体から着想を得て生まれたテクノロジーをご紹介します。
ねこの肉球は、やわらかさと弾力をあわせ持っています。肉球の内側には、コラーゲン性の膜で区切られた脂肪組織があり、着地の衝撃をやわらげるのに役立っていると考えられています。
この構造をヒントに、北京航空航天大学や汕頭大学に所属する中国の研究チームはクッション性の高いソールを開発しました。脂肪組織のはたらきを参考にSTFという素材を入れ、ミッドソールには複雑な格子状構造を採用しました。その結果、40cmの高さでは一般的なスポーツシューズの方が優れていた一方、80cmの高さでは、ねこの肉球に着想を得たソールの方が高い衝撃緩和性能を示しました。今回開発されたソールは、パラシュートを使って活動する空挺兵の着地時の負担を軽減するものとして期待されています。
信州大学の研究では、ねこが高いところから落ちても、しなやかに体をひねって足から着地できる動きに注目し、その仕組みをロボットで再現できないか調べました。
そこで研究チームは、前半身と後半身をやわらかい背骨のような部分でつなぎ、その中にゴム製の人工筋肉を入れたねこ型ロボットを製作しました。このロボットは、背中を曲げたり、体を回したりできるよう工夫されており、実験では空中で向きを変える動きを実際に再現できたそうです。こうした研究は、将来的に落下中に姿勢を整えるロボットや安全に着地する技術などに生かされる可能性があります。
ねこの舌はざらざらしていて、なめられるとちょっと痛いです。これはねこの舌にたくさんのとげのような「糸状乳頭(しじょうにゅうとう)」があるためです。アメリカ・ジョージア工科大学の研究チームによると、この糸状乳頭の先にはストローを縦に切ったような空洞があることが分かりました。
空洞があることで、毛や汚れを効率よくキャッチでき、傷つけずに舌触りを整えられるのです。
同研究チームでは、この糸状乳頭を3Dモデル化し、ブラシに応用しました。そのブラシで毛をブラッシングすると、引っかかりが半分以下になったそうです。この技術は新しいブラシの開発に加え、ロボティクスに応用できる可能性があるということです。
ねこの舌については以下の記事でも詳しくご紹介しています。

ねこが素早くしなやかに動けるのは、優れた感覚器に支えられているからです。夜でも見やすい目や、周囲の状況を敏感にとらえるひげなど、ねこの感覚器からヒントを得て生まれた技術や製品を解説します。
道路に埋め込まれた小さな反射板は「キャッツアイ」と呼ばれています。その名の通り、ねこの目が光を反射して輝いて見えることに着想を得て開発されたものです。キャッツアイは、半円形に盛り上がったガラスやプラスチックの反射体を備えており、車のライトを強く反射して、暗い道でも道路の境界線やカーブを分かりやすくします。
また、キャッツアイにより道路に起伏ができることで、その上を通ると車が振動し、走行ラインがずれていることがわかるというメリットもあります。
ねこの目に学んだ技術が、夜間や雨の日の安全運転を支えているのですね。
ねこの瞳孔は、光の量に応じて大きく丸くなったり、縦に細くなったりします。これにより、明るさを調節するだけでなく、目の前の対象物に焦点を合わせやすくなります。
韓国の研究チームは、このねこの目の特性をヒントに、縦長に開閉するスリット状の開口部を持つ人工視覚システムを開発しました。
人間の目のような丸い開口部では、見るべきものと背景の区別がつきにくく、余計な情報まで目に入ってしまうことがあります。しかし、ねこの目のようなスリット状にすることで、必要な情報により注目しやすくなるのです。
この人工視覚システムは、ドローンや自動運転車などに応用できる可能性があると期待されています。
ねこの目については以下の記事でも詳しくご紹介しています。
ねこのひげは非常にすぐれた感覚器で、わずかな空気の流れを感知し、物の位置や大きさなどを敏感にとらえることができます。信州大学の研究チームでは、こうしたねこのひげの構造に着想を得て、高感度の圧力センサーを開発しました。このセンサーは、ごく小さな圧力の変化にも鋭く反応し、それを効率よく電気信号に変えられるのが特徴です。そのため、脈拍の計測やスポーツ中の体の動きの分析などに活用でき、リハビリテーションやスポーツ医学への応用が期待されています。

ねこのチャームポイントである、スリスリする動作やゴロゴロという音にも、人の生活に役立つヒントがたくさんあります。最後に、ねこの行動や生理を応用して生まれたテクノロジーをご紹介します。
ねこは、好きな相手に頭をすり寄せることがあります。これは親愛を示す行動であると同時に、自分のにおいをつけて安心する意味もあると考えられています。筑波大学の研究チームは、このスリスリの動きに注目し、ねこの行動を模したロボットを開発しました。
ロボットの首には、動物の首の仕組みにヒントを得たやわらかい構造が取り入れられており、ワイヤーの張力を変えることで、首のかたさを調整しながら自然に頭をすり寄せる動きを再現できるよう工夫されています。
実験では、大学生・大学院生22人にこのロボットとのふれあいを体験してもらい、前後の気分の変化を調べました。その結果、体験後は体験前に比べて緊張度が有意に低下しており、ねこのスリスリをヒントにした動きが、人の気持ちをやわらげる可能性があることが示されました。この研究成果は、将来的にセラピーロボットの開発などに生かされる可能性があります。
2018年、中央大学の研究チームは、ネコ用人工血液の開発に成功したと発表しました。ねこは献血の仕組みが整っておらず、血液型不適合が深刻な問題になりやすいため、安全に使いやすい人工血液が求められていました。研究チームは、ネコの血液中のたんぱく質をもとに、酸素を運ぶ働きを持つネコ用人工血液を開発しました。この人工血液は、血液型不適合や感染症のリスクを抑えられ、長期保存も可能とされています。もし実用化されれば、緊急時に適合する血液がすぐ見つからない場合でも治療を始めやすくなり、輸血医療の大きな助けになると期待されています。また、この技術は将来的に人の人工血液研究にもつながる可能性があります。
ねこの血液・血液型については以下の記事でも詳しくご紹介しています。
ねこから生まれたテクノロジーについてご紹介しました。
ねこの鋭い感覚や高い身体機能には、新しい技術や製品につながるヒントがたくさんあります。
のんびり寝ているだけに見えるねこが、私たちの暮らしを便利に、安全にしてくれると考えると、ねこの見方が少し変わるかもしれません。