ねこを飼っていると、その頭のよさにびっくりすることがあります。
ドアの開け方を覚えて勝手に部屋から出たり、キャリーバッグを見ると「病院に連れて行かれる!」と逃げたり…。
では実際のところ、ねこはどれくらい賢いのでしょうか。今回の記事では、ねこの知能やその中でも特に優れている能力について解説します。
まずは、ねこの知能についての基礎知識からご紹介します。ねこの知能はどれほど高いのか、人や犬とどう違うのか、見ていきましょう。
ねこの知能は人間でいうと2~3歳程度と考えられています。その根拠としては、ねこの取る行動が、人間が2~3歳程度の発達段階の時に見られるものに似ているからです。
ですが、もちろんどの能力も2~3歳児と同じというわけではありません。
例えば、3歳児は言葉を話せますし、「明日」や「あとで」という未来の概念や「もしも」の話が理解できるようになります。
しかし、ねこはいくつになっても言葉を話すことはできず、目の前にある事実しか認識できません。
その一方で、野生のねこは生後半年にもなれば母ねこから独立して、ひとりで狩りをし、天敵から身を守って生きることができます。人間の3歳児といえば、まだ親がつきっきりでお世話をしなければならない時期です。
このように、人間とねこでは知能の発達する方向性が異なるため、ねこ=3歳児の知能とは一概にはいえません。あくまで目安として考えておくと良いでしょう。
先ほどご紹介した、「ねこの知能は人間の2~3歳児程度」というのは、ねこの行動から類推したものです。
今度は、脳の器質的な面からねこの知能について読み解いていきましょう。
動物の知能の高さを測る尺度として「脳化指数」が使われています。脳化指数とは、体に対する相対的な脳の重量を指します。
動物種 | 脳化指数 |
ヒト | 7.4~7.8 |
バンドウイルカ | 5.3 |
チンパンジー | 2.2~2.5 |
イヌ | 1.2 |
ネコ | 1.0 |
ウマ | 0.9 |
ヒツジ | 0.8 |
ウサギ | 0.4 |
出典:Wikipedia 脳化指数 ※脳化指数は任意の定数を用いて計算します。そのため、文献やサイトによって数値は異なることがあります。
ねこの脳化指数はチンパンジーや犬より低く、ウマやヒツジより高いことが分かります。
しかし、脳化指数はあくまで一つの目安に過ぎません。
なぜなら、知性には脳のさまざまな特徴が関与しているため、一口に「知性が高い、低い」とはいえないためです。
また、知能を測るためには、脳そのものの大きさももちろんですが、脳の構造についても考えていかなければなりません。
以上の理由から、「脳が大きい=賢い」と決めつけることはできないのです。
それでは、ねこの脳についてもう少し詳しく見ていきましょう。
ねこの脳の重さは30g程度で、人間の脳と構造が似ていますが、脳の各所の発達度合いが異なります。
まず、脳の表面を覆う「大脳新皮質」の厚みが異なります。大脳新皮質は判断や思考といった「理性」を司る箇所ですが、人間に比べるとねこは大脳新皮質が非常に薄いのです。
しかし、その内側にある「大脳辺縁系」は非常に良く発達しています。大脳辺縁系は情動や意欲など「感情」を司る部分です。そのため、ねこは感情や本能の面で非常に優れており、狩りや身を守るための行動を素早く、また正確に取ることができます。
ねこと良く比較される犬も、知能は2~3歳程度と言われています。しかし、犬の方が良く人の言うことを聞くため、「犬の方が賢い」と思う方もいるかもしれません。
犬は群れで行動する動物であり、リーダーの命令に従うことに喜びを感じます。そのため、知能テストにも一生懸命応えようとします。
しかし、ねこは単独行動をする動物であり、犬ほど社会性は高くありません。何らかのご褒美がないと行動を起こしませんし、気分次第で行動を変えることがあります。
このように、ねこと犬は性質が違うため、両者に同じテストをすることはできません。そのため、「犬とねこではどっちが賢いか」という問題に、簡単に答えを出すことはできないのです。
「知能」とひとまとめにしてしまうと、ねこの知能は人間より低いといえるかもしれません。
しかし、狩りをするため、天敵から逃げるための能力としての「知能」であれば、人間よりも優れた面を発揮することがあります。
ねこの知能の中でも特に優れている点を以下にご紹介します。
記憶は大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」があります。
短期記憶:一時的に頭に残っている記憶
長期記憶:数年以上に渡って頭に残る記憶
ねこが優れているのは「短期記憶」です。人間の短期記憶は数秒~数十秒程度ですが、ねこは60秒~10分程度記憶できます。
長期記憶は人に劣りますが、「嬉しいこと」、「嫌なこと」と結びついた記憶は忘れません。
例えば、以下のような経験をしたとしましょう。
すると、ねこはすぐに「爪切り」→「おやつ(嬉しい経験)」、「キャリーバッグ」→「病院」(嫌な経験)が結びつきます。
その結果、爪切りを喜ぶようになったり、キャリーバッグを見ただけで逃げたりするようになります。
特に、恐怖や不快につながる記憶は決して忘れません。子ねこの時に車に乗って怖い思いをした、というねこは、一生車を嫌がることもあるほどです。
ねこは判断能力も非常に優れています。危険な状態になった時に素早く逃げる、隠れるといった行動を素早く取ることができます。また、獲物の動きに合わせて、追いかける、待ち伏せする、コースを変えるなど、適切な判断をすることが可能です。
空間認識能力とは、立体的な空間を認識する能力のことです。ねこはこの空間認識能力が非常に優れており、一度通った場所であれば、どの道が最短か、どの道か安全かを把握することができます。
上の様子が見えない高い場所に躊躇なく飛び上がったり、キャットタワーを迷わず上ったり下りたりできるのは、この優れた空間認識能力によるものです。
ねこは単独行動をする動物のため、人間や犬のような社会性に乏しいとされています。しかし、人に飼われているねこは、人と上手にコミュニケーションを取ったり、人に合わせたりするような行動も見られます。
そんなねこの意外な才能をご紹介しましょう。
人に飼われているねこは、ある程度人の言葉を理解していると考えられています。
たとえば、自分の名前はちゃんと覚えていて、呼ぶと返事をしたり近づいてきたりするねこも少なくありません。
しかし、ねこカフェなど多頭飼いをしている環境においては、自分の名前と他のねこの名前を識別できないこともあるようです。
また、自分の生活に直接結びつく単語であれば覚えることができます。例えば「ごはん」、「おやつ」、「寝よう」という言葉を理解し、ごはんの場所まで走ったり、ベッドに行ったりするねこもいます。
覚えられる単語数は10~20語程度といわれていますが、訓練をすれば200語程度覚えることも可能です。
しかし、自分に関わりのない単語は覚えません。また、音の強弱や抑揚で言葉を記憶しているため、似た音の単語を区別できなかったり、飼い主以外の人が発音したら理解できなかったりすることもあるようです。
ねこは正確な体内時計を持っています。ねこを飼っている方は、愛猫が、ごはんが出るころ自動給餌機の前に座ったり、飼い主が寝る時間に寝室に行ったりするなど、鋭敏な時間感覚があることを実感しているでしょう。
デンマークで行われた実験では、なんとねこは3秒の時間差を認識できる可能性があることが分かりました。
こうした正確な体内時計は、獲物である小動物の行動パターンを把握するために発達したと考えられています。
ねこは気まぐれなようでいて、意外と飼い主の行動を見ています。
・人のまねをする
人がドアノブを押し下げて開けているのを見て、自分も同じように開ける
・人の反応を見て自分の反応を決める
知らない人が来たけど、飼い主が快く迎えたので逃げずに様子を見る
・人の視線や指差しの意味が分かる
人が見た方や指差した方を見る。
また、空の器の前に座って人をじっと見つめ、ごはんをねだる
ねこは単独行動をする生き物ではありますが、人や他のねこの行動を良く観察し、安全や食事を確保するために最良の行動を学んでいるのです。
特に人に飼われているねこは、人とコミュニケーションを取るため、野生のねこには見られない社会性を示すこともあります。
ねこの知能についてお話しました。ねこの知能は2~3歳児程度といわれていますが、ごはんや安全に関わることであれば、より高い判断力や記憶力を示し、素早く物事に対応することができます。人や他のねこの様子を注意深く観察し、最適な行動を選択する、いわゆる「空気を読む」ことも得意です。
しかし、自分に興味のないことは一切覚えようとも、行動を起こそうともしません。余計なことにエネルギーを使わず、自由気ままに生きています。そうした生き方もまた、ねこの「賢さ」なのかもしれませんね。