現在、ねこの品種は登録団体に登録されているもので60種程度、未公認のものも含めると300種以上あるといわれています。
折れ耳がかわいいスコティッシュフォールドや毛のないスフィンクスなど、品種によって特徴があり、とても個性的です。
そのようなねこの品種はどのようにして作られたのでしょうか。
今回の記事では、ねこの品種改良の歴史や方法、有名猫種のルーツについて解説します。
飼われているねこ(イエネコ)の祖先は、約13万年前に中近東を中心に生息していた「リビアヤマネコ」といわれています。
最初は人のすみかの周辺をうろついていたリビアヤマネコが、人の残飯や穀物倉庫のねずみを獲るようになり、人と一緒に暮らし始めたのが家畜化の始まりと考えられています。
その後、ねこは貿易商たちによって世界中に広がり、単なる「家畜」から、人を癒す「ペット」となりました。より美しくかわいらしいねこを作るための品種改良も進められるようになり、個性的な外見を持つねこたちが誕生したのです。
ねこの家畜化の歴史については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
ねこの品種には大きく分けて「自然発生したもの」と「人為的に改良されたもの」があります。
ねこの祖先であるリビアヤマネコは暑く乾燥した地域に多く生息していましたが、その後世界中に運ばれたのち、環境に適応するよう被毛や体格、性質が変化していきました。
自然発生で誕生したと考えられている代表的な猫種は以下の通りです。
現在でも大人気の猫種であるシャム(サイアミーズ)は自然発生によって生まれ、約700年前、エジプトからシャム(現在のタイ)に渡ってきたといわれています。
シャムのクリーム色の体に濃い茶色のポイント、空のような水色の目といった特徴が人の目に留まり、珍重されて品種として固定されたものと考えられています。
その美しさから、かつては宮殿や寺院で隠されるように飼われていたともいわれていますが、そのルーツには今も多くの謎が残されています。
ふさふさしたに大きな体が特徴的なノルウェージャンフォレストキャットも、自然発生により生まれた猫種です。
起源ははっきりしていませんが、8~11世紀頃にバイキング(北方ゲルマン族)がトルコのビザンチン帝国から持ち込んだという説があります。
北欧の厳しい寒さの中で生き延びるため、がっしりした体と長い毛を持つねこへと進化したと考えられています。
ターキッシュバンは、名前の通りトルコのバン湖周辺の孤立した地域で進化した猫種です。
「トルコの泳ぐねこ」と呼ばれることもあるほど水が好きなねこで、被毛には脂分が多く、水を弾きます。
このようにターキッシュバンが水に適応した理由としては、魚を捕るため、もしくは夏に涼むためにバン湖で泳いでいたという説がありますが、定かではありません。
ターキッシュバンの毛は絹のように美しく、尾にはふしぎな縞模様(バンパターン)があります。
1955年、その美しさや水遊びをする姿に魅了された猫愛好家がイギリスに連れて帰り、1970年にはアメリカで品種として公認されました。
ジャパニーズボブテイルは名前の通り、日本にルーツを持つねこです。ウサギのような短いしっぽは突然変異で生まれ、島国の閉鎖的な環境で固定されたと考えられています。
見た目のかわいらしさに加え、フレンドリーな性格、丈夫な体、手間のかからない短い被毛が特徴的で、1968年にアメリカに送られ品種改良が進められました。
ねこの人為的な品種改良が本格的に進められるようになったのは約200年前です。ねこの持つ美しさやかわいらしさがさらに引き立つような改良がなされ、多くの猫種が認定団体に登録されるようになりました。
ねこの品種改良の方法としては、主に以下の3つがあります。
突然変異で現れた特徴的な形質を、計画交配により固定するものです。
この方法で改良された猫種としては、折れ耳が特徴の「スコティッシュフォールド」や、足の短い「マンチカン」、毛のない「スフィンクス」などがあります。
すでにある特徴的な猫種をかけ合わせて、新しい猫種を生み出す方法です。
代表的な猫種としては「ボンベイ」があります。ボンベイは黒ヒョウのようなねこを作ることを目的に、黒いアメリカンショートヘアーとバーミーズを交配させて作られました。
同様の例としては近年人気上昇中の「キンカロー」が挙げられます。
キンカローはアメリカンカールとマンチカンの交配によって生まれた猫種で、アメリカンカールの反った耳とマンチカンの短い脚を受け継いだ個性的な猫種です。
野生のねことかけあわせて新しい猫種を作る試みもなされています。
代表的な猫種は「ベンガル」です。ベンガルはイエネコに野生のねこである「ベンガルヤマネコ(アジアンレパード)」をかけあわせたもので、スリムで筋肉質な体つきと金色に光るヒョウ柄の毛が特徴です。
他にも、サーバルとの交配種である「サバキャット」、ジェフロイネコとの交配種「サファリ」など、野生ねことの交配によりさまざまな品種が生み出されています。
人為的な品種改良でうまれたねこのうち、特に有名なものや変わったエピソードを持つものをご紹介します。
スコティッシュフォールドは日本でも人気トップクラスの猫種です。ぺたんと折れた耳と真ん丸の顔、のんびりした性格がとても魅力的です。
先ほど触れたとおり、スコティッシュフォールドの折れ耳は突然変異によるものです。
ルーツは1961年にスコットランドの農場で生まれた「スージー」という白いメスねこです。
スージーは生まれつき耳が折れており、同じく折れ耳の子ねこを2匹産みました。この2匹の子ねこから計画交配が始まったのです。
しかし、スコティッシュフォールドの品種改良は難しいものでした。折れ耳は耳の軟骨に影響を及ぼす遺伝子によって現れるものであり、折れ耳同士をかけ合わせると骨格障害が出やすくなってしまうためです。しかし、立ち耳と折れ耳を組み合わせると折れ耳の出現率が50%となり、品種の固定が難しくなります。
試行錯誤の末、ようやくスコティッシュフォールドが公認されたのは1994年のことです。
しかし、「骨瘤」に代表される遺伝子疾患や関節の障害を持つねこも多く、英国獣医協会からは繁殖をやめるべきだとの声も上がっています。
ラグドールは、1960年代にカルフォルニアの女性ブリーダー、アン・ベイカーによって生み出されました。
白いペルシャやバーマン、バーミーズなどをかけ合わせたものといわれていますが、詳しいことは分かっていません。
どっしりした体とふさふさの長い毛が特徴で、抱きあげるとぬいぐるみのようにおとなしくしていることから「ラグドール(ぬいぐるみ)」という名前がつけられました。
アン・ベイカーはその後「IRCA」という組織を立ち上げ、さまざまな規制を設けました。その規制に反発したグループがIRCAから独立し、ラグドールとペルシャやヒマラヤンのような長毛種をかけあわせて「ラガマフィン」が誕生しました。
なお、ラガマフィンとは「ぼろを着たもの」、「いたずらっこ」という意味で、これはブリーダーの中で確執があったことを表すともいわれています。
ベンガルはイエネコと野生ねこである「ベンガルヤマネコ」をかけ合わせて生まれた猫種です。
ベンガルのルーツはやや特殊で、人の白血病研究のために生み出されました。
イエネコはねこの白血病にかかりますが、ヤマネコは白血病になりません。
そこで、イエネコとヤマネコを交配し、白血病ウイルスのゲノム解析をすることで、人の白血病のメカニズムを探ろうという研究が行われたのです。
しかし、ヤマネコとイエネコから生まれた第一世代のオスねこには繁殖能力がなく、品種の確立は困難を極めました。それでも計画的に交配を進める中で品種が固定され、1991年にTICAによって公認されました。
ねこの品種改良についてお話ししました。ねこはとてもたくましい動物で、暑い場所や寒い場所、水の多い場所など、置かれた環境に適用する力を持っています。
しかし、あえて人はねこに手を加え、品種改良を行ってきました。
人の手によって生み出されたねこはとても個性的で美しく、私たち人間を癒し、楽しませてくれます。
その反面、品種改良により慢性疾患や生殖機能障害を持つねこが生まれたり、人間同士の確執につながったりと、さまざまな問題が起きることも少なくありません。
ねこの品種改良の歴史や問題を知ることは、ねこと人との関係性を知ることにつながります。
今回の記事でねこの品種改良に興味を持ったら、ぜひご自分の愛猫やお気に入りの猫種のルーツを調べてみてください。
人気の猫種については以下の記事でも詳しくご紹介しています。