「ねこは液体」、これはねこの体の驚くべき柔軟性を表した言葉です。ねこの体はふにゃふにゃ、くったりしていて、小さな箱に入ったり、狭い隙間を通り抜けたりできます。
なぜ、ねこの体はこんなに柔らかいのでしょうか。今回の記事では、ねこの持つ柔軟性の秘密にせまっていきます。
ねこの体が柔らかいのは、ねこの生活に関係があります。
ねこは瞬発力に優れたハンターで、獲物を見つけたら一気に飛びかかってしとめます。その反面持久力は低く、長い間走り続けることができません。
そんなねこが自分より大きな肉食動物から身を守るためには、敵の手が届かない場所に隠れる必要があります。そのためねこは体が柔らかく、狭い場所にもぐりこむことができるのです。
柔軟性に富んだ体を作るのは、骨や靭帯、関節といった動作に関わる部分です。以下に詳しくご紹介していきましょう。
ねこの体が柔らかい理由の一つに、骨格構造があります。
まずは骨の数から見ていきましょう。ねこは小さな体ながら骨の数が多く、その数は人間の1.2倍程度です。また、胸椎、腰椎、肋骨の数も人間より多いことが分かります。
全身の骨 | 胸椎 | 腰椎 | 肋骨 | |
ねこ | 244 | 13 | 7 | 13 |
人間 | 206 | 12 | 5 | 12 |
骨が多いということは、それだけ柔軟に動かせるということでもあります。
1本の長く固い棒は曲がりませんが、短く切って紐でつなげると自由自在に曲げられるのと同じです。
数が多いだけではなく、骨同士のつながり方も柔軟性に大きく関係しています。
人間の肋骨は胸骨にしっかり繋がっていますが、ねこの肋骨は13本中9本しかつながっていません。
また、ねこには非常に小さな鎖骨がありますが、他の骨と連結しておらず宙に浮いた状態になっています。
こうした特殊な骨格構造により、ねこは体が非常に柔らかく、狭い場所に入ったり、隙間を通り抜けたりすることができるのです。
それに加えて、ねこの肩甲骨は首の後ろ側にあり、足の動きに合わせて自由に動かせることができます。
ねこの骨は人間と同じく固いですが、骨をつなぐ椎間板や靭帯、関節といった部分は人間より柔軟性に飛んでいます。
骨の数が多いうえにつなぎ目部分も柔らかいため、ねこは体を自由に曲げたりひねったりできるのです。全ての関節を伸ばすと、体の長さが2倍程度になるともいわれています。
特筆すべきは背骨です。ねこの背骨と背骨の間の椎間板は非常に柔軟性に富んでおり、長く伸ばしたり、同時に2方向に曲げたりすることができます。
ねこの皮膚は柔らかくて余裕があり、背中や首、お腹の皮をつまむことができます。特に下腹はだらんと皮膚が垂れ下がっています。これはプライモーディアルポーチ(ルーズスキン)と呼ばれるもので、内蔵の防護に加え、後ろ足の可動域を大きくするのに役立っているといわれています。ぴったりしたタイトスカートよりも、布をたっぷり使ったフレアスカートの方が、足さばきが良いのと同じ理由です。
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腸の短さも柔軟性に関係しています。ねこは肉食動物であるため、腸は短めです。
他の動物と比較しても、腸がかなり短いことが分かります。
動物種 | 体長に対する腸の長さ |
ネコ | 3~4倍 |
イヌ | 5~6倍 |
ヒト | 4.5~6倍 |
ブタ | 15倍 |
ヒツジ | 27倍 |
そのため肋骨や脊柱で内臓を支える必要性が少なく、体を思い切り曲げたり伸ばしたりできるのです。
ねこの素晴らしい柔軟性は、ねこならではの動きを生み出すのに役立っています。
以下に詳しくご紹介しましょう。
ねこは高い所から落ちても、体をひねらせて足から柔らかく着地できます。この動きの元になっているのは、背骨と足の関節です。
先ほどご紹介した通り、ねこの背骨は柔軟性のある椎間板でつながっており、体を大きくしならせたり、回転したりすることができます。
そのため、高い所から落ちても、体を素早くひねって足から着地することができるのです。それに加え、足の関節が柔らかいため、地面に落ちた時の衝撃を吸収できます。
ねこは木登りが大得意ですが、これも体が柔軟であるからこそです。ねこは木にジャンプして飛びついた後、木に抱きつくようにしてよじ登ります。この「抱きつく」という動作は、鎖骨があるからこそです。鎖骨があるからこそ、腕を左右に動かして両腕の間隔を調節し、木を前足で挟み込むことができます。
ねこは体高の5倍程度(1.25~2m)の高さまでジャンプできます。この素晴らしいジャンプ力も、体の柔軟性が一役買っています。
ねこの背骨は自由自在に曲げたり伸ばしたりできます。また、足の関節や靭帯も柔軟性に富んでいます。これがバネのような役割を果たし、高いジャンプを可能にしているのです。
ねこは狭い隙間を通り抜けたり、小さな箱などに入ったりすることができます。
ねこは頭さえ入れば、どのような狭い隙間も通れるといわれています。これは鎖骨が退化しているためです。鎖骨は腕や肩、胸を連結させる役割を持っています。ねこはこの鎖骨が非常に小さく、他の骨とつながっていないため、肩幅を自由に変えることができるのです。
また、ねこはかなり小さな箱や容器にも入ることができます。これはねこの骨格や関節、靭帯が柔らかく、さまざまな姿勢を取ることができるためです。丸い容器に入ると丸く、四角の箱に入ると四角く体の形が変わって見えることから、「ねこは液体」と定義づけられる論文が執筆されたほどです。
この「ねこは液体」の論文については、後ほど詳しくご紹介します。
ねこは毛づくろいをするとき、前足を舐めて顔にこすりつけます。この動きは犬にはできません。
ねこは前腕の2本の骨、「橈骨(とうこつ)」と「尺骨(しゃっこつ)」をねじれ合わせることで、手のひらをひっくり返すことができるのです。
2017年、パリ・ディドロ大学のマーク・アントワン・ファルダン氏が「On the rheology of cats(ねこの流動学について)」という論文でイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞しました。
この論文にて、ファルダン氏では「ねこは固体であり液体である」と説明しています。液体の定義を「体積は一定であるものの形は容器に合わせて変化するもの」とすると、狭い入れ物にもすっぽり入ってしまうねこは「液体」であるといえるというのが論文の主旨です。
ファルダン氏はこの説を立証するため、小さな籠やガラス瓶、狭い隙間に入りこむねこの写真を公開し、会場は笑いに包まれました。
イグ・ノーベル賞は「人々を笑わせ、その後で考えさせる」研究に送られるものです。
ファルダン氏の研究は、ねこのかわいく面白い写真で人々を笑わせ、その後でねこの柔軟性や本能について考えさせる、まさにイグ・ノーベル賞にふさわしい研究であったといえるでしょう。
ねこの体が柔らかい理由をご紹介しました。ねこの骨格や筋肉、皮膚や内臓の作り全てが、「液体」といわれるねこの柔軟性を生み出しています。ねこはその柔らかな体を最大限に活用して、走ったりジャンプをしたり、また狭い場所に隠れたりして狩りをし、敵から身を守って生き抜いています。
しかし、なんといっても人にとって嬉しいのはその抱き心地です。ふにゃふにゃくったりしたその体は、「人をダメにするソファー」のような感触で、抱いているだけで癒され、幸せな気分になれます。
「ねこかぞく」では、ねこの魅力をこれからもお伝えしていきます。大切な家族であるねこのことをもっと知り、ねことの生活を楽しんでさい。